ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「赤い雪 Red Snow」

「赤い雪 Red Snow」観ました。
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30年前の雪の日。自宅で鳴った電話。それに出た幼い弟が「今から出かけてくる」と言った。

母親に頼まれて後を追った兄。なのに。

いつの間にか弟を見失った。永遠に。

 

あの日あの時。一体何があった。弟と自分に何が起きた。

 

思い出せない。けれど。恐らく…いや、アイツは絶対に見ている。知っている。自分たち兄弟に何が起きたのか。

 

「みんなお前が悪いんだろ」

 

今作品が長編映画デビューの、甲斐さやか監督作品。

弟を失った傷をずっと抱える、主人公白川一希を永瀬正敏。当時起きた一希の弟失踪を初め、地元の不穏な事件諸々に関与していたと思われた(そして限りなくクロに近い)女容疑者の娘、江藤小百合を菜菜菜。事件の真相を追う記者、木立省吾を井浦新が演じた。

 

こんなにも冬が。雪が。寒々しい日本映画は久しぶりでした。

 

雪の醸し出す白。けれどそれはべしゃべしゃの水気を含んだ灰色から泥色。背景も概ね暗く。その中で映える赤は朱色で。そんな独特のコントラスト。

 

永瀬正敏井浦新。何だかびっくりする位豪勢なキャストの中で。やっぱり圧倒的な存在感を見せた、菜菜菜。」

 

自殺サークルがデビュー作品だったと知って。「なるほどなあ~」と唸った当方。兎に角不穏な雰囲気を終始漂わせた怪物俳優。この作品に於いて最大の要。

 

30年前。小さな田舎町で起きた少年失踪事件。けれど。その前後からたびたび起きていた不審な事故死や火事。それら一連の出来事に関わっていたと思われる、ある女(夏川結衣)。

娘と二人暮らし。手ごろな男を見つけては取り入って。体のいい所で殺してしまう。そういう手口に違いないのに。何故か捜査網を潜り抜けてしまう。警察は何度か彼女を捕まえているのに。ヘラヘラを笑いながら黙秘を貫くばかり。結局逃げられr、現在は消息不明。そうして30年の月日が経った。

 

「居るんですよ。あの女の一人娘が。あの島に住んでいるんですよ。」

 

記者を名乗る木立が見つけ出した『あの女』の娘、江藤小百合。

まさか。自分が未だに住んでいる、この場所のすぐ向かいにある小さな島に。アイツもまた…抜け出せなくなっていた。

 

「一体何があったのか。」

 

母親のネグレクトから学校に行かせてもらえず。ずっと家の隅に押し込まれていた小百合。日々行われていたDV。そんな中、入れ替わり立ち代わり訪れていた男。全てのやり取りを見ていたはずの小百合。

アイツなら知っている。一体あの雪の日に。何が起きたのかを。

 

現在は寂れた旅館で清掃スタッフとして働く早苗。一人で雑に働く最中、客の鞄や財布から金を抜いて。

「何だか怖いんです。」早苗のふてぶてしい態度に他のスタッフは怯え。そんな反面、男性スタッフとの体の関係も匂わせる。自転車通勤の途中、立ち寄る雑貨店(田舎あるある日用品+食料品を置いている個人商店)では手慣れた手つきで万引き。

「碌な大人になっていないな~。」顔をしかめる当方。

小さな島の外れにある、小さな家(小屋)。そこに年上の男性(佐藤浩市)と住む小百合。

 

「こんな汚らしい佐藤浩市はなかなかお目に掛かれないな。」

インテリ崩れを装うけれど。はたから見たらただの酒臭い汚いおっちゃん。働かず早苗にくっ付いて朝から晩までずっと飲んでいる。どうやら彼は早苗の母親の元恋人で、かつては早苗の母親に金目の男を紹介していたらしい。早苗の母親が姿を消した今は早苗の元にずるずる居座っている。

「汚いけれど…佐藤浩市って元々醸し出している雰囲気が『しっかりした小奇麗な人(当方比)』やからなのか。違和感…。いっそ不健康に痩せて髪の毛も散らかしてみたらいいのに…。」勝手な事を思う当方。濡れ場なんかもあるんですが…もっとえげつない感じでもいいのに(本当に勝手)。

 

閉鎖された空間。すたれた生活を送っていた所に。突如現れた、木立省吾と白川一希。二人の男。彼らは昔早苗見たものを吐き出せと言う。

 

「被害者と加害者。はたから見た立場ははっきり分かれているけれど。全体像が見えた時。その境界線は余りにも紙一重。」

 

記者木立の要求は「真相を知りたい」。けれど。一希の「知りたい」は違う。「言って欲しい」。

 

弟の失踪に対しあやふやな記憶しかない一希。あの時弟は「~ちゃん(友達)のお家に行ってくる」と言って自宅を飛び出した。後を追った自分は、何故弟に追いつけなかったのか。弟の姿を見失った時、当時早苗親子が住んでいたアパートの前に居た。けれどそこから自分がどうしたのか思い出せない。

何故「弟は川に行った」と言ったのか。分からない。どうして。どうして。

母親は弟を探し回り。終いには発狂し。結局家族は崩壊した。

自分のせいか。あの時弟を見失った。真実を思い出せない自分のせいか。

 

「真実は一つな訳じゃないですか。」作中、とある人物が発した名探偵コナン風発言。

教えろ。お前は全部見ていたじゃないか。母親と同じだんまりか。何でも良いから言え。逃げ惑う早苗に畳みかける一希。

 

「みんなお前が悪いんだろ。」

 

弟に実際に手を下した人間が居る。けれど。じゃあお前はなんだ。

分かっていたじゃないか。あの女の存在も。こんな場所で居なくなった弟は何をしているのかも。お前は日ごろ弟に対してどう思っていたのか。これはお前が望んだことじゃないのか。

 

確かに真実は一つ。けれど。そこにどういう意味付けをするのかは個々に依って違う。

一希が望んだ、彼の答え。それは「お前が悪い」。

自分でそう導きだすのは怖い。だから『見ていたはず』の早苗にそう言って欲しかった。

 

~と。そう解釈した当方。けれど。

では『見ていたはず』の早苗はどう解釈しているのか。

 

正直、最後の二人が佇むシーン。「一蓮托生。ってやつですか…。」散々持ってまわった丁々発止を繰り広げてきた割に、風呂敷を畳まずに投げて来た感じが否めず。すっきりしない当方ですが。

 

「早苗は過去のいろんな事件現場を見てはいるけれど。恐らく彼女は初めからはまともに語らないだろう。彼女に真相を求める者は、常に己にとってに欲しい言葉を要求するから。事件が起きた当時ならまだしも、年月が経った今。『~だからこうなったんだろう』の確認作業をしたいだけだから。」「ただ。時間を掛けて互いの話をすり合わせて行けば、真相はシンプルな方向に収束するのかもしれない。」

 

霧の中。同じ泥船に乗った二人は。一体どうなるのか。

 

モヤモヤとすっきりしない。歪で不穏で…印象的な作品でした。