ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「バーニング 劇場版」

「バーニング 劇場版」観ました。
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1983年に発表された村上春樹の短編小説『納屋を焼く』の映画化。イ・チャンドン監督作品。第71回カンヌ国際映画祭にて『万引き家族』と共にパルムドールを争った(らしい)。

村上春樹かあ…何だかんだまともに読んだのは『ノルウェイの森』くらい。」それも当方の感想としては「ワタナベの奴、入れ食い状態やな!数多の女がアンタに抱かれたがっているぞ!」という茶化したもの。今回の原作も未読。映画も意識していませんでしたが。

 

「何だか…とても高評価の嵐。何だ何だ。このうねりは。」劇場公開後。どこかしらからか聞こえてくる声。声。そうなるとうずうずしてしまって。

 

「なんともまあ。映画らしい映画であったことよ。」

 

アカデミー賞関連やらの大型映画が次々封切られる中、下手したらいつの間にか公開終了してしまいそうでしたが。何とか鑑賞。結果溜息。これは映画館で観る映画案件。

 

「一体どういう照明や器具を使えばこんな夕暮れや闇が撮れるんだ…。」

 

大学文芸創作学科卒のイ・ジョンス。小説家志望。現在は運送配達のバイトの傍ら、文章をしたためる日々。

ある日。店先で呼び込みをしていた女性に声を掛けられたジョンス。彼女はジョンスと同郷のジン・ヘミと名乗る。整形し、こうやってイベントコンパニオンを生業にしていると。「今夜一緒に飲みに行かない?」一風変わったヘミにグイグイ引き寄せられるジョンス。

「アフリカ旅行に行くの。その間飼っている猫に餌をあげて欲しい。」後日ヘミのアパートに訪問。流れるようにセックスする二人。(THE春樹イズム:当方の造語)

ヘミが旅立った後も実家から彼女のアパートに通い、一向に姿を見せない猫に餌をやるジョンス。

北朝鮮との国境直ぐの村。常に北朝鮮のスピーカーからの放送が響く、ぽつんと立った田舎の一軒家。そこに一人で住むジョンス。

というのも、実家に一人で住んでいた父親が公執行妨害で逮捕され拘留、裁判中だから。母親はとっくの昔に家族を捨てて不在。父親が細々と酪農を営んでいた実家にはまだ牛が居て。放ってはおけない。

うらぶれた田舎でくすぶる日々。書きたいものも特になくて。折角ヘミと出会ったのに。もんもんと己を持て余すジョンス。そこに掛かってきた、ヘミからの帰国の一報。

翌日喜び勇んで空港に向かったけれど。そこにはヘミと親し気に笑い合うハイソな男性、ベンが居た。

 

何だか随分丁寧にここまでの話をなぞってしまった。これではあらすじを書くだけで終わってしまう…という事で軌道修正しますが。

 

当方だって文筆業じゃないし…何様だと言われればそれまでですが。これだけは言える。「ジョンスは小説家にはなれない。少なくとも今の彼では。」

 

自分以外の人間に対する視野の狭さ。想像力の無さ。それは若さだけではない…様に見えた。育ってきた環境や…貧しさ故の卑屈感なのか。

 

退屈な毎日に突然現れたヘミ。「可愛くて我儘で強引。一回セックスしたくらいで好きになってんじゃないよ!童貞か!:当方の声。」って、多分童貞か似た様なもんだったんでしょうけれど。しかも出会って盛り上がった直後(物理的に)会えない日々が続いた事でマックスまで募る恋心。なのに。

待望の再会なのに。新しい男を連れて来た。しかも年上のイケメン、高収入。生活レベル故の余裕なのか、落ち着いた佇まいのベンに押されるジョンス。

案の定、ベンにヘミを持っていかれるジョンス。恋人同士な二人は楽しそうだけれど…何だかへミが道化に見える時もあって。そしてある日。突然へミは姿を消した。

 

「年老いた当方からジョンスに告ぐ。へミはやめておけ。手に負えん。」

 

デートで突然ジョンスの家に遊びに来たヘミとベン。庭先で三人で始まる酒盛り。そして訪れたマジックアワー。

 

若い。けれどそれがいつまでも続かないと知っている。自分は確実に老いて朽ちていく。子供の時。この景色の中をジョンスと走り回った。でももうここに居場所はない。もう子供ではいられない。何処にも居場所はない。なのに。

 

何故この夕暮れはこんなに美しいのだろう。

 

ヘミの親が語っていた絶縁状態や、他のコンパニオンの言葉なんかも合わせると、「恐らくへミは深刻な金銭トラブルに陥っていて。身から出た錆で失踪又は拉致されたのだろう」と考察する当方。それが彼女が消えた真相ではないかと。

 

 

そうなると、一番割を食ったのが、無邪気で無神経なベン。

「決して悪意は無いんよな~。ただ育ちが良くて薄っぺらいだけで。」それだけなのに。

金も時間も持て余しているベンにとって、ヘミは新しいおもちゃ。可愛くて、くるくる動いて。これまでもこういうおもちゃは常に手元に置いてきた。けれどヘミにはジョンスという付録が付いてくる。それが違う。

 

「僕の趣味はビニールハウスを焼く事です。」「今日も下見に来たんです。」「二か月に一回くらい…丁度今ぐらいかな。君の住むこの家の近くで。いいのを見つけました。」

 

ジョンスとヘミとベン。三人か交差した、奇跡みたいな夕暮れ。踊りつかれたヘミが眠ってしまった所で、おもむろにベンがジョンスに語ったサイコパス趣味。

直後、ヘミが姿を消した。

 

「ミカンがあるかないかじゃなくて。ミカンが無い事を忘れればいい。」

 

ジョンスとヘミが出会った日。二人で行った居酒屋で。「最近パントマイムを習っているの。」とミカンを剥いて食べる仕草をしてみせたヘミ。「上手いもんだな。ミカンがあるみたいだ。」と関心したジョンスに、ヘミが返した言葉。

 

何があって、何が無いのか。目の前に見えているもの。誰かが発した意味深な言葉。金銭的なステータス。自分の目の前にあるものだけで判断しては、相手の本質を見失ってしまう。

 

ビニールハウスを焼くとはどういうことなのか。

 

ストレートに受け取って。そこからは「ベンがヘミについて何かを知っている」と破滅に向かうジョンス。そうなると途端に雪だるま式に加速。「ちょっと待て。ちょっと待て。」「何かジョンス…上手くいかない全ての憤りをぶつけていないか?⁉」痛々しい位に驀進するジョンスに心の中で声を掛けるけれど。当然届くはずもなく。

 

それは…かつて「父はかっとなると何も見えなくなるんです。」と語っていた貴方の父親と同じ事をしているとはいえないのか?ジョンスよ…。

 

けれど。この判断で救われた者もいた。あの最後の表情で。そう思った当方。

(もう随分分かりにくい書き方をしていて辛い。ネタバレ回避を死守すると、ポエムにしかなりません。)

 

「なんともまあ。映画らしい映画であったことよ。」

 

一体ジョンスはこれからどうなるのか?そう思うのに。目を閉じると、あの奇跡の様な夕暮れのシーンが浮かんで。何かが込み上げてくる当方です。