ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ゴッズ・オウン・カントリー」

「ゴッズ・オウン・カントリー」観ました。
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 イギリス。『神の恵みの地/ゴッズ・オウン・カントリー』と呼ばれる、ヨークシャー地方。

「ここは美しい。けれど寂しい。」そんな田舎で。祖母と病気の父親に代わって、一人で牧場を切り盛りしているジョニー。

「こんな所。クソ溜めだ。」孤独で。未来に希望なんて持てなくて。気持ちを持て余し、夜な夜な酔い潰れるまで酒を飲み。衝動を行きずりのセックスで紛らわせるジョニー。

ある日。「羊の出産ラッシュで大変だから」と父親が雇った短期労働者ゲオルゲ。彼を初めて見た時「マジかよ」とつぶやいたジョニー。

ルーマニアからやって来た移民労働者ゲオルゲを『ジプシー』と呼び。憎たらしい態度を取っていたジョニーだったが。

二人で過ごす山小屋生活。そこでの羊たちへの接し方等を見ていくうちに、ゲオルゲに惹かれていくジョニー。そして二人は恋に落ちる。

 

「ありふれた出来事が こんなにも 愛しくなってる」(8月のクリスマス 山崎まさよし

 

2018年末。シネマートイベント『のむコレ』にて期間限定上映。当方の様な地方勢には数日しか上映期間が無く。結局仕事の関係で観に行けなかった事が悔しかった作品。けれど。改めて今回、再上映されると知って。慌てて映画館に向かった当方。

 

「誰かを好きになると世界はこんなにも美しくなる。」

 

二日酔いでゲロゲロ吐いているジョニーの画からスタート。暫くは荒んだジョニーの日常が描かれる。牛や羊の世話。セリに出かけて、そこで引っ掛けた男とただただ性欲処理的なセックス。夜は地元のバーでひたすら飲んで…という思いっきりやさぐれたジョニーの姿。「あんたも学生の時は面白い奴だったのに」大学に進学した能天気な同級生は無神経にもそう言ってくる。けれど。

 

脳神経疾患の後遺症で体に麻痺の残る父親。母親はとっくの昔に不在で、父方の祖母と三人暮らし。父親が管理していた牧場を一人で細々と続ける日々。機械化されていない牧場での作業は重労働。父親は口ばかり挟んでくるけれど、実際には何の手助けにもなれない。

 

「よくやっているよ。ジョニーは凄くよく頑張っているよ。」

 

もう早いうちから、胸が一杯になる当方。同級生が大学に行っているって事はせいぜいハタチかそこらなんでしょう?馬鹿な事をして。笑い合って。恋をして。そんな年頃なのに。逃げ出さずに。その若さで、こんな娯楽もないど田舎で一家の大黒柱をやってるなんて。

 

「そりゃあ酒も飲みたくなるし。ゲイセクシャルならますます出会いが少なそうやし。」

 

けれど。出会った。出会ってしまった。運命の相手に。

 

父親がたまたま短期雇用として雇ったゲオルゲルーマニア人で移民労働者。あくまでも短期でしか関わらない相手のはずだったのに。

 

「スパダリ…って奴ですか。」(震え声)

 

腐った女人の皆さまが騒ぐせいで。図らずもその言葉を知ってしまった当方。

『スパダリ/高身長・高収入・高学歴でイケメン。行動まで非の打ちどころがない男性。理想の彼氏・パートナー:スーパーダーリンの略』

「そんな奴いねえよ!UMA(未確認動物)か‼」そう(心の中で)吠えていた当方…でしたが。

 

ゲオルゲ。完璧すぎる…。」

 

高収入では無いし、高学歴なのかは知りませんが。(とは言え。「親が英語教師でしたから。」と英語が話せて、あれだけ家畜の世話が出来たら、イギリス牧場業界では十分でしょうよ)家畜たちへの滋味深い接し方。黙々寡黙で真面目な働きぶり。

かと思うと「何だよ。ジプシーが。」調子に乗って悪態付いてくる年下のジョニーを押し倒して「いい加減にしないとどうするか分からないぞ。」と叱りつけ。

「何なんだよ。もう…好き。」ジョニーと共にすっかりゲオルゲが好きになってしまう当方。

そして。最もハードルが高そうなセクシャリティの部分が一致していた二人。瞬く間に恋に落ちるジョニーとゲオルゲ

果てしない包容力の持ち主、ゲオルゲと身も心も繋がった事で、どんどん柔らかくなっていくジョニーの表情と態度。それが観ているこちらにも伝わり過ぎて。眉を下げて頷く当方。

 

確かにこれは同性愛者の男性二人の恋を描いた作品ではあるけれど。

孤独で夢も希望も見いだせなかった若者が、恋をしたことで今いる場所の美しさを知った。決して彼は一人では無かった。そしてこの場所で自分は誰とどう生きていくのかという決断をした、これはそういう作品だ。そう思う当方。

極端な話、この話のカップルが同性なだけで、異性であろうが。恋をするとはそういう事なのだと。

 

またねえ。ジョニーの父親も、祖母も。悪い人なんていない世界なんですよね。

危なっかしい息子を見るにつけ、思わず文句を言ってしまう。まだまだ息子は若い。本当は自分が色んな事を教えてやりたかった。けれど体がままならなくて。

分かっている。息子が投げ出さずに自分の跡を継いでくれようとしている事。なにもかもよくやってくれている事を。

孫のジョニーとゲオルゲの関係を察して。思わず涙が出たけれど。決して否定などしなかった祖母。

その父親と祖母の姿に涙が出た当方。

 

最終。「何でそんな事になっちまうんだよおお。」と当方の心の中の藤原竜也が叫ぶ展開。「ジョニーお前…全てを失うぞ!」思わず涙目で震えましたが。

 

「で。ジョニーはどうしたいの?」

 

言葉足らずで不器用故。不本意な顛末に陥りそうなジョニーに。きちんと言いたい言葉が出てくるまで待ってくれたゲオルゲ。「お前どこまでも…スパダリだな!」高まる当方。

 

「皆が幸せになってください。『神の恵みの地/ゴッズ・オウン・カントリー』で。」

 

閉鎖的で寂しい。あの美しい場所で。ジョニーとゲオルゲだけでなく。父親も祖母も。ささやかだけれど満たされた日々が送れますように。そう祈り続けた作品でした。
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