ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ハード・コア」

「ハード・コア」観ました。
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いましろたかし原作『ハード・コア 平成地獄ブラザーズ』の映画化。監督山下敦弘

主演兼プロデューサー山田孝之。その他荒川良々佐藤健

 

社会になじめない。自分に嘘を付きたくない。そんな真っすぐ過ぎる権藤右近(山田孝之)。「最底辺の時に救ってくれた」所謂極右勢力の金城に忠誠を誓っているが。

弟で真っ当な社会人の左近(佐藤健)はそんな兄をふがいないとイライラしながら見ている。

「徳川の埋蔵金が埋まっている。」という金城の言葉に沿って、月給7万円で日々群馬の山奥で穴掘りをする日々。

そこで同じく穴掘りをする仲間の牛山(荒川良々)。どこか足りない、あやういそいつとつるむ日々。

ある日。廃工場で寝泊まりする牛山の元にブリキのロボットが現れた。いかにもポンコツな出で立ちのそいつー『ロボ男』は実は超高性能なロボットで…。

 

「まずはいましろたかし氏の原作ありき。だが当方は未読。」

 

2000年初頭。松本大洋原作の『ピンポン』『青い春』映画化を思い出した当方。

20代前半。まだまだモラトリアム全盛だった当方。映画を観た時は原作未読。けれど映画を観て居ても経っても居れなくて。即日本屋に原作漫画を買いに行った。そんな思い出。

 

いましろたかし氏の原作未読。ただこの作品を観て感じた事。山下監督、山田孝之。間違いなくこの原作を愛していて、この世界観を壊したくないと思っている。そういう原作ラブな人たちが作り上げた作品。」

 

昨今よく観る(主に)少女漫画原作の映画化。男女アイドルを起用し、やれ部活だ三角関係だクラスの人気者に見初められるだ記憶喪失だ難病だと。そんな予告編観てきましたが。

 

「漫画原作ではあるが。明らかに無骨系。けれどロボットとか出てくる。何これ。」

そう思って。観に行ったのですが。

 

「ところで。権藤の父と母は前世で何の得を積んだらこんな兄弟を授かったのだろう。」

 

キャスティングの妙だとは分かっていますがね。やっぱり、山田孝之佐藤健が兄弟って。全然血の繋がりを感じない、ジャンル違いの男前。

近年ずば抜けて面白い事になっている松坂桃李(褒めてます)と同じく爽やかイケメン枠で二番手の佐藤健(あくまで当方比)。

今作ではやり手営業マン左近として。兄の右近の思想を何となく理解しながらも「そんな綺麗事で食っていけるか。上手くやれよ兄貴。」と叱咤する役割。けれどドライに徹する事出来なくて。結局同じ穴のムジナになってしまう。

 

そして主人公右近の同僚、牛山(荒川良々)。

荒川良々の、あの朴訥とした見た目と喋り方。それを真正面から起用した感じの牛山像。かつては神童と呼ばれた、壊れた大人。

廃工場にこっそり寝泊まりし。おどおどとした喋り方と、どんくささから馬鹿にされがち。当然童貞。

そんな牛山と何となくつるむ右近。

 

正直、原作未読の当方からしたら一番キャラクター説明が無かった権藤右近(山田孝之)。

 

無骨。曲がった事が大嫌い。周りに居る、ちょっと危ない奴が放っておけなくて。こんな奴、俺だって面倒だって思っているのに。

なのにその心の声を他人が口に出してそいつをののしっていたら堪らなくて。だってこいつにだって生きている価値はあるんだから。心があるんだから。何でも言っていい訳ない。だからこいつには俺しか居なくて。面倒なんだけれど。放っておけない。

左近は上手くやれって言うけれど。こんな救い様がない奴らと底辺で遊んでいないでさあ兄貴。こんなの人助けじゃないんだから。兄貴のやっている事は偽善なんだから。

だって兄貴は心底こいつの事を思っている?結局こいつの事、馬鹿にしてるじゃないの。こいつにあれこれ言う奴らに牙を剥くけれど。兄貴だって同じ事、思っているじゃないの。それって言ってることとやってる事が違うじゃないの。そう言って追い詰めてくるけれど。俺だって分かってるんだよ。

 

本当はそれ、逃げたらいい。都合の悪い事、辻褄の合わない事。考えても分かんない事に囚われていても時間の無駄。悩んでいる事が正義だなんて欺瞞だよ。

 

~という、居酒屋で左近が右近に放った言葉に過剰に追加して右近を追い込んでみましたが。概ね当方から見たらこういう事を延々こじらせている主人公に見えました。

 

曲がった事が大嫌い。けれどその曲がった事とは何か。一体自分は何の思想に基づいて、一体何を守っているのか。そう悶々としている青年。

 

「俺が底辺に居た時救ってくれた~」どういう?語られない、金城と右近の絆。

どういういきさつで極右勢力の活動グループがどういう状態だった右近を救ったのか?…まあ、それは当方の脳内引き出しで補てんしますけれど。

 

とは言え。全編に渡って漂う哀愁。そしてコメディ感。湿っぽいけれど、何だかおかしい。

 

「また出てくる女性キャラが軒並み絶妙。」

 

初めのエピソードの松たか子は置いておいて。牛山が童貞を捨てようとしたデリヘル嬢。金城のNO2 水島の愛人。そして水島の娘、多恵子。

 

全然美人じゃない。スタイルが良い訳でも無い。なのにそそられる。何この軒並場末感シスターズ。

多恵子に至っては「駄目。絶対嵌りこんでしまうセックスする人で、こちらの生活をガタガタに崩してきた挙句駆け落ちか心中に追い込んでくるキャラクターやん。」というホラー案件。震える当方。

 

この作品の主軸となり。一見淡々とした口調で無表情に何とか世界と辻褄を合わせようと努力し続けた右近。(しかし山田孝之は本当に良い役者になりましたね。何様発言ですが)けれど。

 

結局右近の住む世界に、右近の思想の落としどころを付けられる場所は無かったんですかね。

 

最終。ああいう終わりを見せた事に、どこかホッとしましたが。けれど同時に「元々居た場所は彼の正義が通用する所ではなかったんだな」とも思えて。

でもそれをきちんと証明するには行き詰まり過ぎて…だからああいう…一足飛びな展開を持ってきたんですかね?

 

原作未読。ひょっとしたら何らかの解釈があるのか。分かりませんが。

 

何故か松本大洋の時とは違って。すぐさま原作には走らずに「ああでもないこうでもない」と脳内で想像している当方です。