ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「若おかみは小学生!」

若おかみは小学生!」観ました。
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「『若おかみは小学生!』ああ…あの小学校の本棚に大抵あるやつな。」

 

9月。映画新作公開作品を調べていたら見掛けたこの作品。普段からアニメには造詣の無い当方。当方の近しい教育者からは冒頭の回答。当然スルー案件…でしたが。

 

「『若おかみは小学生!』やばい。」「これは持っていかれるやつ。」「観ないのは愚。」公開以降。当方の耳に飛び込む声、声。それも一つや二つでは無くて。

気になる…気になってきている。けれど最早朝イチ一回上映になり始めているし…そうやって二の足を踏んでいましたが。

満を持して。公開より一か月強経った10月終盤。泊り勤務明けで朝イチの回を観に行く事が出来ました。

前日の泊まり勤務は中々の激務。正直殆ど寝ていない状態でもありましたが。

 

「うわああああああ。これはあかんんんん。」

 

元々涙脆い当方。途中から涙が止まらず。最後の辺りなんて、嗚咽が出そうになって口にタオルを押し当てての鑑賞。結果這う這うの体で帰宅。

 

「何やこれ。小学生モノやと思って小学生の子供と観に行こうものなら、親が立てなくなるやつやんか!」「心が!当方の汚れた心が!打たれすぎて心破裂!」

 

若おかみは小学生!令丈ヒロ子著。2003~2013年まで講談社青い鳥文庫より刊行された全20巻の児童文学作品。

12歳の関織子(おっこ)。両親と三人暮らしであったが。交通事故で両親が他界。一人になってしまったおっこは祖母である関峰子に引き取られる。

花の湯温泉という温泉街で『春の屋』という小さな温泉旅館を営む峰子。ホスピタリティの高さから贔屓の客も多い春の屋。けれど。70代と高齢のおかみである峰子、中居一人、料理人一人という少人数体制故、存続について不安があった。

春の屋到着から直ぐ『ウリ坊』と名乗る幽霊と出会ったおっこ。ウリ坊の言葉に乗せられて峰子達の前で「若おかみになる」と言ってしまったおっこ。

かくして、おっこの春の屋若おかみ修行が始まった。

 

全20巻の物語を94分に纏めているので。話に遊びが一切ない。時間を確認する術はありませんでしたのであくまで体感ですが。冒頭10分以内には両親との別れ(しかもその交通事故のシーンが結構怖い)が描かれる。

その後春の屋に到着。ウリ坊との出会い。若おかみへの決心。未知なる力を持つ鈴鬼との出会い。新しい学校。そこで出会った花の湯温泉一帯を取り仕切る老舗旅館の娘秋野真月との出会い。そして新たな幽霊美陽の出現と、息つく間もなく主要人物達の駒が出揃っていく。

 

客寄せ能力も持つ鈴鬼に依って。春の屋に訪れる、個性あふれる客人たち。

彼等をおもてなしすることで、成長していく若おかみおっこ。

 

「~っていう話って知ってたあ?」「いや全然。ホンマに本棚に立っている光景しか知らんかった。」「おいおいアンタ。正直やな。」「知らんのに知ってるふりするのはおかしいやろ。」「おうう。その言い回し…流石血は争えんな…。」興奮して話す当方に件の教育者の悲しいリアクション。

 

流石児童文学と言ってしまってはあれですが。兎に角『悪い人がいない世界』。

そして主人公おっこがどこまでも真面目で一生懸命。

「何て言うか…きちんと大切に育てられた子なんやなあと思う。」

おっこから感じる育ちの良さ。

色んな出会いややり取りで落ち込んだり怒ったりもするけれど、自分に生じた負の感情に長くは囚われない。相手のせいにしない。

寧ろそんな感情を持った相手に「どうしてこんな風に思うのだろう。」「どうしたら相手の役に立てるだろう。」「私は何を出来るだろう。」と気持ちを切り替える。これは接客業、ホスピタリティの要。そんな考え方、大人でもなかなか直ぐには出来ない。

 

母親を亡くして落ち込んでいる、同じ年頃の少年。失恋した占い師。そして最後にやってきた、試練の家族。

 

「花の湯温泉のお湯は誰も拒みません。誰もが癒されるお湯です(言い回しうろ覚え)。」そう言って。湯治を薦め。そしてどうすれば客人が心からくつろげるのかを考え、提供し。そしてまた彼らの住む世界へ送り出していく。

 

「とは言え。貴方だって辛いやないの。」(涙声の当方)

12歳。小学生。両親を突然理不尽に奪われた。ガラッと変わった生活。何が若おかみだ。お手伝いだ。学校だ。そうわがままを言っても全然おかしくないのに…(尺の問題もあるのか)新しい環境で前向きに頑張っている。けれど。

 

そんなおっこが崩れそうになるシーン。先述の少年の前で自分の両親の事を言って飛び出した時。気晴らしにと誘われて、車に乗った時に襲われた恐怖。そして最後の客人。

 

「もっと大人に甘えなさいよ。」どうしても大人になってしまった当方はそう思ってしまう。辛い、苦しい、そう言ってもっと目の前の大人に甘えていいのに。

 

けれどおっこはその手段を選ばなかった。

 

「大切な人を亡くすとはどういう事なのか。」

別れがある程度覚悟出来る場合もある。けれど、おっこのように突然家族を失ったら?

心の痛みは時がいつか解決する。けれどそこまでに何度も押し寄せる感情。それは一体どうしたらいい?

 

おっこが子供で。そしてウリ坊や美陽という幽霊、謎の存在鈴鬼が見えた。彼等との日々を通じておっこが知ったのは、死者もまた大切な人を見守っている事。実際に触れる事は出来なくても傍に居る。けれどそれは永遠では無い。いつかは本当のお別れが来る。

 

「でもまたいつか会えるよ。」

 

花の湯温泉の神社。神楽のシーンで始まったこの物語は、ぐるっと回って神楽で終わる。あの時の両親の会話が全く違う意味で脳内に再生された時。そしてウリ坊と美陽が見せてくれた世界に。タオルを口に当てて泣いた当方。

 

本当は「花の湯温泉の中でも老舗秋好旅館の娘、ピンふり(いつもピンクのフリフリ衣装だからというあだ名)秋野真月は最高のライバル!そしてあのシーンでウォルト・ディズニー氏の格言を以ってくるセンス!」とか「アニメで眼鏡の度をきちんと描いた作品なんてレア!(おっこ父)」とか。語りたい事は幾らでもありましたが。どう考えても話が長くなるので泣く泣く割愛。

 

「これは何曜日かのロードショー待ちじゃなくてねえ。映画館で観た方が良いですよ!」

件の教育者だけでは飽き足らず。遂に職場の『小学生の女児を持つ母』にまで講釈を垂れ始めた当方。

 

「そして今週知ったんですが。何と公開が一日二回に拡大していました!」