ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ここは退屈迎えに来て」

ここは退屈迎えに来て」観ました。
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山内マリコの同名小説(デビュー作)の映画化。廣木隆一監督作品。

 

何者かになりたくて。東京に上京して10年。結局何も見つけられなくて地元に帰ってきた『私』を橋本愛が。元カレの『椎名』を忘れられなくて。結局地元で燻る『あたし』を門脇麦が。高校時代。皆の憧れだった『椎名』を成田凌が演じた。

 

2013年。27歳の私。

東京に行けば誰かに見つけられる。何者かになれる。そう思って、高校卒業後上京。

けれど結局何者にもなれなかった。そして地元に帰って。フリーライターとして食レポ記事を書く日々。

最近SNSを通じて再び連絡を取り合うようになった友人『サツキちゃん』。勢いづいた二人は高校時代の人気者、憧れの『椎名君』に会う約束を取り付ける。

 

2008年。22歳のあたし。

高校の時付き合っていた椎名が卒業後突然大阪に行った。一人残され。けれどどこにも行けなくて燻る日々。

椎名の取り巻きの中でも目立たなかった奴と惰性で寝るけれど。当然満たされる訳が無くって。

 

2010年。バイト帰りにファミレスでたむろう、24歳のあかねと南。

あかねは元アイドル。けれど今では『ヤリマン』呼ばわり。芸能界を引退し都落ちして帰ってきた。「今の私、くすんでない?」「もう嫌。早く結婚したい。」一方的に騒ぐあかねに対し「別に結婚とかいいや。」と受け流し続ける南。

 

2004年。高校三年生。

きらきらに輝いていた高校生活。サッカー部の人気者、椎名を皆が愛していた。

他愛もない放課後。椎名が初めて声を掛けてくれた。あの時二人で食べたハンバーガー。椎名と仲間達と。皆で地元のゲームセンターで遊んだ。

休み時間。渡り廊下で。二人で話した。

「椎名先輩に」椎名の妹に渡して欲しいと押し付けたラブレター。

「私は椎名君は苦手」そう言って。背伸びして大人のおじさんと付き合った。これは援助交際じゃない。お金なんてもらってない。私は周りの女の子達とは違う。同じ年の人気者の男の子なんかに騒がない。なのに。まさか。

 

「青春やなああああ~。」悶える当方。

 

最早中年のエリアに属する当方からしたら。18も24も27も。この作品に出てくる彼ら彼女らは総じて淡い青春。青春の権化。

 

学生時代。学年や学校の中。その狭いコミュニティー内で異常にモテる奴。確かに居た。

けれどそれはまあ…今思うと単純な理由で。顔がカッコいい。スタイルが良い。センスが良い。足が速い。大体そんな所。そして奴らは自信に満ち溢れている。

男女を問わず。目立つ奴には人が集まる。そうして満たされる承認欲求。「俺は(私は)イケてる。」おのずと生まれる自信と余裕。

そんなスクールカースト上位であった『椎名』。

椎名の恋人だった『あたし』。椎名に憧れていた『私』とサツキちゃん。椎名とは全然違うカーストに属していたけれど。椎名が気になってずっと見ていた新保。

 

「どれだけ輝いていたんだ。アンタたちの高校生活。」呟く当方。

 

四つの時系列がバラバラに入り乱れるので。暫くは「えっとこれは」と言い聞かせながら観ていた当方。(特に椎名の妹と2010年ファミレスパートは終盤まで「これはいるのか?」と思っていて…だからこそ、最後怒涛の畳みかけが来た時「OHOOO!」となりました)

 

ここは退屈迎えに来て

 

秀逸なタイトル。結局この一文が全てを表していたと思う当方。

 

「ここ」とは何処なのか。

 

つまんない。こんな田舎に居ては誰も自分を見つけてくれない。環境を変えれば誰かが自分を見つけてくれる。だから東京に出た。何かが変わる、そう思った。でも誰かにとっての特別に自分はなれなかった。特別?特別って何?

つまんない。結局この田舎から出られなかった。でも今更ここから出るなんて出来なくて。自分はこのままここで朽ちていく。

2013年。27歳になった『私』とサツキちゃんは『椎名君』に会う為彼の職場へと向かう(真面目な事を言うと大迷惑)。その途中。あの頃通った思い出のゲームセンターや母校に寄って。いやがおうでも蘇る、高校生の頃の記憶。兎に角キラキラしていた日々。その中心に居た『椎名君』。特別な人。自分にとって特別な人。

 

「危ねええ~。それ思い出がプリズム補正掛かっちゃってるやん。今椎名に会うのは危険!絶対18歳の椎名を超える訳が無いんやから!思い出は胸にしまって。その箱は空けん方が良い!これは年長者からの忠告だ!」そう騒ぐ当方。そして…溜息。

 

22歳のあたし。椎名が居ない日々がどうにもならなくて。けれど彼女は迎えを待たなかった。恐らく自分から飛び出していった。

 

24歳の二人。「今の私を救ってくれる人が欲しい!」けれどそれは決してゴールでは無くて。そんな一人をよそに。しっかりと確実なモノを掴んだ一人。

 

「当方の推測ですがねえ。「ここは退屈」と最も強く思ったのは椎名やったと思いますよ。」

無条件にモテていた高校生活。男女問わず常に自分の周りには人が居た。けれど高校を卒業した後。どうしていいのか分からなくなった。

どこに行けば良い?俺は何処に行けば良い?居場所は何処?誰か。誰か来て。俺を見つけて。誰か迎えに来て。

 

スクールカースト。けれどあくまでもそれは学校内でしか無くて。ならばその枠が外れた時。一体自分はどうしたらいい?

 

「結局、都合よく誰かが自分を見つけてくれるなんて殆どない。自分で歩いて行かないと。自分で見つけないと。時が経って振り返って。自分には何も無かったなんて本当は無い。」淡々と語る当方。

「そりゃあ人様に語れるようなドラマは無いかもしれないけれど。結局ここまでの選択は全て自分がしてきたんやから。いつかはそう言えるから。」

 

『茜色の夕日』を歌いながら歩くあたしに。『茜色の夕日』を泣きながら歌う新保に。泣けばいいと思う当方。しんどい。やるせない。切ない。会いたい。

構わないから泣いたら良い。泣いたって誰も迎えに来ないけれど。それが分かるのは当方が歳を取ったから。今はただ泣けばいい。

 

誰もに平等に流れる時間。青春の落としどころを付けていく登場人物達。

 

「ただ…あのプールのシーン。(ポカリスエットCM感!)そりゃああんなの、忘れられんよな。」

 

ところで。全編富山県ロケだったこの作品。思わず職場の富山県出身者に薦めてしまいました。是非とも観て貰いたいです。