ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「純平、考え直せ」

純平、考え直せ」観ました。
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奥田英朗の同名小説の映画化。森岡利行監督作品。

21歳のチンピラ、純平を野村周平。不動産に勤めるOL加奈を柳ゆり菜が演じた。

 

歌舞伎町。「いつかは一人前の男になりたい」と夢見る純平。けれど実際にはヤクザの中でも最下層チンピラ。アニキの後ろに付きながら雑用をこなす日々。

 

そんなある日。組長に呼び出されたかと思えば「これで敵対する組の幹部を殺ってこい。(=鉄砲玉になれ)」と銃を渡される。期日は三日後。

まさかの大抜擢に舞い上がる純平。組の下っ端仲間には「何で純平なんだ。俺にやらせてくれ」とやっかまれ。そしてアニキには「何で俺に一切の断りもなくオヤジは…」と嘆かれ。けれど「これで男になれる」と気負う純平。

 

時を前後して。馴染みの店のママから泣きつかれて、悪徳不動産屋に乗り込んだ純平。

その時純平を見て気になっていた。そして後日再び不動産屋に乗り込んできた純平を追いかけた、OLの加奈。

 

「つまんなかったから」そうして純平に近寄って。そして一夜を過ごして。結局決行の日まで行動を共にした。

 

「鉄砲玉?何それ」

 

「良い所に泊まって、良いモノを食べて、良い女を抱け。」オヤジとアニキから多額の小遣いを貰った純平。

二人で高級ホテルに泊まって。焼き肉を食べて。会いたい人に会って。二人で居れば満たされる。けれど…。刻一刻と時は近づいていく。

 

「これは…一体どういうテンションで観る作品なんやろうか。」物語が始まって暫く、戸惑が隠せなかった当方。

というのも…何だかとても…演出が古いというか…かと思うと良い所もあって…バランスが悪いというか。(歯切れの悪い言い方)

 

奥田英朗の原作未読。なので何処まで内容が沿っているのか。雰囲気は?…分かりませんが。(昔映画化された『ララピポ』。ふざけていましたが当方は嫌いじゃなかったですし、映画部部長に至っては当時雰囲気の良かった女性との初デートで観に行ったらしい(チョイス理解不能)作品でした。)

 

21歳の若いチンピラ純平は鉄砲玉になる。そんな純平に付いてきたOL加奈。彼女はSNSに依存しており、二人の様子を終始発信。

「そんなの、組の捨て駒にされているだけだ。」「捕まったら二十代全てを棒に振るぞ。」「というか死ぬぞ。」見たことも会ったことも無いギャラリー達に見守られ、様々な言葉を掛けられながら。タイムリミットは近づいてくる。

 

という流れなんですが。いかんせん演出が古い。画面上に着信音とアイコン、そしてメッセージ。加えてわざわざ読み上げてくる。何か…どうにかスマートにならんかったのか。全てを読む必要も無いし。あくまでも二人の刹那的な三日間に重心を於いて、その中で加奈がちらちらスマホ画面を覗いたらそんなメッセージがあって~とかでええやん。ため息を付く当方。

 

まあ。そもそもSNSにそんな事あげるなという話なんですがね。ヤクザがネットを見ないとでも?ほぼ実名出して「今日出会った人が鉄砲玉するんだって」って。純平、実行する前に相手方に捕まって殺される。又は警察に通報されるよ。加奈、その浅はかさ末恐ろしい。

 

ちょいちょい挟まれる、コントみたいなシーン。例えば純平とアニキが二人でお茶するカフェ。純平との会話で感極まって大声を出すアニキに「他のお客様も居られますから」と言いに来たカフェ店長に、「お前は感動した事が無いのか」「声を張り上げる程気持ちが昂った事が無いのか」(言い回しうろ覚え)と騒ぐアニキ。「何だこの純平劇場」困惑する当方。

 

そして純平像がイマイチ分からない。

「俺は一人前の男になりたいんだ‼」その一人前の男って言うのはどういう人間を指すんだ。アニキみたいな?って、アニキの尊敬エピソードも大して語られないし(寧ろ前述の面白劇場のイメージ)。母親との関係も決め手にならない。昔堅気の暑苦しいキャラクター、女はちょっと苦手って。それは分かったけれど。どこからその人格は形成されたんだ。

(こうなったら、加奈とはぽつりぽつりと話をするけれど、他は誰ともあまり話をしない。けれど鉄砲玉は引き受ける。秘めたる熱さを持つ。みたいなキャラクターの方がまだ分かりやすかったですよ。)

 

 

「ただ。野村周平が演じる純平には、不器用で未完成な人間だという説得力はあった。」

 

この作品で。当方が手放しに称賛するのが『柳ゆり菜の女優魂』。

 

はっきり言って、軽くて浅はかさで頭が良くない。けれど純平と過ごす事で変わっていく加奈。そんな加奈をどこまでも血の通った存在に仕上げた。

ヤクザがバックにいる、ヤバい不動産屋で。ずるずる辞められなくて腐っていた。つまんない毎日。そんな時、飛び込んできた純平。ワクワクして。付いていきたくなった。

そんな加奈にしか見えなかった。柳ゆり菜という女優では無く、加奈にしか見えなかった。

加奈を演じる為には脱ぐ事もエロも厭わない。だって必要だから。

 

この作品の中で突出し続けた柳ゆり菜。これは純平と加奈が中心の物語だけれど。こうなると俯瞰と純平単独の部分はほとんど切って、『加奈の視点から見た純平との三日間』をメインにして語らせた方がすっきりしたんじゃないかと思った当方。

何故なら。柳ゆり菜は他のキャストを完全に喰っていたから。

 

(当方がもう一人良かったと思ったのは、加奈の不動産屋同僚役の岡山天音。気弱そうだけれど実は歪んだ支配欲を持つアイツ…。ホテルでのシーンは最高の迫力でしたが。「ヤクザが絡む不動産屋相手におイタしたらあんなもんじゃ済まんやろう。そしてアンタもいつ銃を持ったチンピラが帰ってくるか分からんこの部屋で‼ハイリスク過ぎる‼当方なら不動産屋に加奈を連れていって…」というエロ展開を想像しかけましたよ)

 

冒頭でのエピソードがぐるっと回って最終の判断と繋がるので。「純平は考え直したのか」という結末にはならないのですが。

 

「純平はどうなったのか。」

 

それを示した加奈の表情。そのラストシーン。ただ表情だけで全てが分かった。

 

「何やねんこれ。」

最後の加奈の表情に。唐突に込み上げる感情。飲み込まれる。何やねんこれ。何やねんこれ。

 

こんなにも不器用でバランスが悪い作品…なのに堪らない。嫌いにはなれない。

 

この作品で柳ゆり菜を見付けた。凄い女優を見付けた。

 

「これは一体どういうテンションで観る作品なんやろうか…。」戸惑っていた気持ちは結局そう着地。

 

これは大きな収穫でした。(何て言い回し)