映画部活動報告「ウインド・リバー」
「ウインド・リバー」観ました。
アメリカ。ネイティブアメリカンが追いやられた『ウインド・リバー』。
雪深い僻地。その雪の大地で見つかった少女の遺体。
FBIから派遣された女性捜査官ジェーン・バナー。しかし雪山など初体験の彼女。その過酷な自然環境に捜査は難航し。
遺体発見者であるベテランハンター、コリー・ランバートに協力を要請。そして彼女らは思いもよらない結末を知るが。
予告編及びチラシを総合すると、そういう煽り文句で紹介されていましたが。
「真夏の雪山映画。というと…『フローズン』。」
週末のみ営業のスキー場。そのナイターでリフトに乗った男女三人。
しかし不幸にも三人が乗ったままリフトが終了してしまい…というパニック映画。
「おいおいあんんたのそれどこの骨だ。」「狼が居るスキー場。」ホラー…というより突っ込み所満載の面白作品。(あくまでも当方の感想です)
「まあでも。真夏に観る雪山映画の清涼感。絵面だけで体感温度が下がるからな。」
なんて。お気楽な気持ちで映画館に向かいましたが。
「貴様!どういうつもりだ!」
ニヤニヤと締まりの無い当方を張り飛ばす勢い。これはもう。一寸のおふざけも許さない『本当に芯からシャンと背筋が伸びる作品』でした。
FBI捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)主体で冒頭書いてしまいましたが。主人公はベテランハンターのコリー(ジェレミー・レナ―)。
地元でハンターとして暮らすコリー。しかし彼もまた元々はよそ者。地元ネイティブ・アメリカンの妻と結婚し。この土地に居を構え、子供を二人儲けた。けれど。
愛する娘がある日何者かに殺された。そしてその事をきっかけに家族は壊れた。妻は息子と二人家を出て。結局この土地にはコリーだけが残った。
そんなコリーが。ある日雪の中に少女の死体を見つけた。娘の親友であった少女の。
冒頭の文章、すなわち公式の広報には「思いもよらなかった結末」云々とあるのですが。
「うん。意外でもなんでもなかったし、こういう流れ以外考えられんかった。」正直謎解き目的の作品ではないと思った当方。
地元ハンターとFBI捜査官が殺人犯を追い詰める。それが主軸ではありますが。寧ろ描かれたのは、その背景に横たわる『ウインド・リバー』という土地の閉塞感。
アメリカ開拓時代。白人たちに追いやられたネイティブ・アメリカン。こんな雪深い僻地で身をひそめなければならなかった。時は流れ。今は誰もが皆同じ『アメリカ人』だけれど。やはりどこかで感じてしまう『俺たち』と『白人』『よそ者』。
極寒地域。最低限のインフラ。労働口の狭さ。娯楽も無い。貧困。治安の悪化。「刑務所に入った方がましだ。三食出るからな。」
そんな土地で。時折同じように雪の中で見つかる少女。直接の死因は凍死(呼吸に依って肺が凍り付き、喀血。そして窒息するとのこと)。厳しすぎる環境が少女達を死に追いやる。
しかし少女をそんな状況に放り込んだのは誰だ。レイプされ。こんな極寒の中、少女が裸足に薄着で走り出さずにおられなくしたのは。
「どうしてコリーはこの土地に残ったのか。」
元々この土地の者では無いのに。娘が殺され、妻は耐えられないと土地を後にしたのに。
「それは彼がハンターだからだ。」そう思う当方。
FBI捜査官と行動を共にする。お互い犯人を追い求める姿は同じ。けれど。コリーは「FBIに犯人を明け渡す」つもりでは無かった。自分の娘とオーバーラップする事の多いこの事件に於いて。俺が仕留めてやる。その気概であったはずだと思う当方。
「この土地に運なんて無い。」「弱肉強食だ。死んだのは弱かったから。それだけだ。」(言い回しうろ覚え)ここで生きるとは。そうFBI捜査官ジェーンに言うけれど。
「けれど。彼女は強かった。」「生きる気力が彼女をこんな距離まで歩かせた。」
少女らが無力でひねりつぶされたとは言わない。そんなの、認めたくない。
だから。生きる気力に溢れていた、幾らでも輝く未来があった少女達を殺した犯人を。俺が殺してやる。俺が仕留めてやる。しかも単純には殺さない。
何処までも追い詰めて。同じ?いやもっと苦めて。殺してやる。
今回の被害者である少女の父親とのシーン。コリーと彼が語り合うシーンにしみじみした当方。
雪山映画。その痛さを感じる雪と、どこまでも晴れない土地の閉塞感。何故か驚くほど緊迫した銃撃戦。そして男達の『目には目を!』というハムラビ法典理論。
終始フルスロットルな緊張感に疲労困憊。
「これは…真夏の清涼感求めて気楽に行く案件じゃないよ…。」貼り倒された当方、未だ消化不良のまま。この作品を思う時、気持ちだけはあの吹雪の中です。