ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」観ました。
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1994年。アメリカ。リレハンメルオリンピック選考会直前に起きた『ナンシー・ケリガン襲撃事件』。

オリンピック有力選手、フィギュアスケーターナンシー・ケリガンが何者かに依って膝を強打され重傷を負った。

犯人は男性。しかしそのバックには、ナンシーのライバル、トーニャ・ハーディングの姿があった。

 

1970年に産まれ、幼少期からフィギュアスケートを初め。アメリカ人女性で初めてトリプルアクセルを飛んだ。(史上二人目。一人目は伊藤みどり)1992年アルベールヒル、1994年リレハンメルオリンピックに出場。経歴だけ並べたら華々しいけれど…類を見ないお騒がせ選手。

 

「懐かしい…」

 

今では独居生活の当方ですが。

実家時代、当方の家族は揃って(全方位)スポーツ観戦好き。オリンピックから高校野球からサッカーからWBCから世界卓球から…勿論フィギア競技も。兎に角該当シーズンになるとテレビに釘付け。

反して、そんな家族から「非国民!」と非難されるほどスポーツ全般に興味が無い当方。現在では当方の生活に『スポーツ』という分野は全く存在しなくなりましたが(もうここ2年位、テレビ番組事体見なくなりました)

昔は散々お茶の間で見させられました。

となると当然、上の空でぼんやりテレビを見ていただけなのですが…そんな当方ですら覚えている、『1990年代初頭の女子フィギアスケートの大波乱』。

 

流石に2000年代の荒川静香浅田真央安藤美姫、キムヨナその他の選手もニュース報道程度には知っていますが。それでも「一番高く飛んでいたのは伊藤みどりだ」と思っている当方。

 

こんな事を言うと叱られますが…どうしても『白人で金髪のたおやかな女子が似合う競技』感が特に強かった、そんな気がする1990年代までの女子フィギアスケート。なのに。

遂に女子でもトリプルアクセルを飛ぶ選手(伊藤みどり)が現れた。そして黒人バク転選手、ボナリー。二人目のトリプルアクセル成功者、ハーディング。

可憐な氷の妖精の集まりが、次第に猛々しい様相を呈していった。子供だった当方のぼんやりとした印象。

そんな中でもひときわ印象的だった、ハーディング。確かな実力者でありながら。何故こんなに荒々しいのか。憎たらしいのか。ぼんやり見ていた当方にはよく分かりませんでしたが。

 

まさかの。25年も経った今。「そういう事やったのか」という答え合わせ。

 

所謂『ホワイト下層(貧困層)』出身。鬼ババアなんて言葉では言い表せない、きっつい母親。笑えない虐待。それが常態化していた事から生じた「愛する者からの暴力は当たり前」という悲しい刷り込み。初めての彼氏とそのまま結婚。大好きだった時もあったけれど…結局はずるずると腐れ縁。DV上等。そして夫は後の襲撃事件でもクロ判定。

 

「そういう事やったのか…」溜息を付くけれど。けれど。

 

「この作品の良い所の一つは、そんなハーディングの半生を湿っぽくは描かなかった事だ」そう思う当方。

 

家が貧しい。母親が鬼ババア。DV彼氏。全て最悪やけれど…あくまでもこれはリアルの人物の背景なのだから。その当人以外が「可哀想」等ど言ってはいけない

そして。「最悪だったわ」とは言っても。そこから飛躍的な伸びを見せたハーディングの負けん気。力強さ。ならば寧ろコミカルに。テンポ良く展開していく作風、嫌いじゃない。寧ろ好き。

 

そして「役者のリアリティよ」。

ハーディングを演じたマーゴット・ロビー。1980~1990年代のだっさいファッションを始め…あの1990年代の女子フィギア選手達の体型(=むっちり)すらも体作りしてきたような…もうハーディングそのものにしか見えなかった。

母親からの呪縛から逃れる為なのに、結局同じカテゴリー(DV)の彼氏に付いて行く。度重なる彼氏からの暴力と接見禁止、なのにまたヨリを戻す、の繰り返し。THEメンヘラカップル。

そしてハーディングの夫、ジェフとジェフの友人ショーン。最後のエンドロールで。「めっちゃ再現度高かったんやなあ~」と当方が感心した二人。

 

まあでも。一番印象的だったのはやはり『鬼ババア』ことハーディングの母親、ラヴォナを演じたアリソン・ジャネイでした。
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まだ子供だったハーディングをスケート教室に入会。フィギアなんて富裕層のお遊びでしかない中で。「他のガキと喋るな」「私の金で滑らせているんだ」「トイレなんか行ってる暇はない、滑れ」タバコとポケットウイスキー片手に下品な態度でゲキを飛ばし。当然周りの保護者からは眉を顰められるけれど。お構いなし。

ハーディングが大人になってもその調子。基本鞭しかない教育スタイル。

 

この作品は終始インタビュー形式を取っていて。主人公であるハーディング。元夫のジェフ。その他ジェフの友人やハーディングのスケートコーチなどが入れ代わり立ち代わり話を進行させていく。そんな中で一切のブレを見せない、異端の母親、ラヴォナ。

 

「とは言え実の娘な訳やし、ちょっとは愛情を見せても…」100歩譲って「これが彼女なりの…」という片鱗も見せて…いたような気もしましたが。概ね最悪。

最終『ナンシー・ケリガン襲撃事件』の首謀者ではないかと追い回された時の再会シーンなんて、酷すぎて…何だか笑ってしまいましたよ!!

スケートリンクですらタバコを吸っていたラヴォナ。肩に鳥を載せるといった『ビルマの竪琴:水島』面白スタイルでインタビューを受ける老年期の彼女に「やっぱり。タバコの吸い過ぎなんだよ」と思った当方。因みに…当方のカン違いであって欲しいいんですが…あの老年期のラヴォナ、インタビュー中にタバコ吸ってませんでしたよね?在宅酸素患者にタバコは厳禁。だって、酸素ボンベの真横で火気発生したら…大爆発しますよ!!注⦆実例報告あり)

 

役者達の渾身の再現力。そして軽快に進む構成。盛り上げる音楽。

加えて、ハーディングのスケートシーンの再現率も良かった。当然CGも使っているんでしょうけれど。マーゴットの努力。全然違和感無し。

 

「そうか。これはこういう話だったのか」当時の事を少ししか覚えていない当方ですら、答え合わせの妙に一つ一つ頷いてしまった。そんな不思議な作品。

 

因みに。ハーディングのその後は全く知りませんでしたので「ああなんか。それ以上はいかないで」思わず呟いた当方。

 

「私は今、良い母親をやってるわ」その言葉を信じたいです。