映画部活動報告「殺人者の記憶法」
「殺人者の記憶法」観ました。
韓国のとある田舎町。そこに住む獣医のビョンス。愛娘ウンヒと二人暮らし。
しかし。実はビョンスはかつて『町のクズ』を殺めてきた連続殺人犯。17年前の実績を最後に。以降は真っ当に。ひっそりと暮らしていた。
最近。アルツハイマー症と診断され。どんどんあやふやになっていく自身の世界。そんな中で。
『この町に新たに起き始めた連続殺人事件』ある日。謎の男テジュとの遭遇。
「俺には分かる。あいつが犯人だ。あいつは人殺しだ」
そして。愛娘ウンヒに忍び寄るテジュ。
一人でテジュに立ち向かうビョンス。なのにアルツハイマーの進行に依って記憶は途切れ。混乱し。そして新たに起きた殺人事件。
「これはあいつの仕業か。…それともまさか俺の??」
『アルツハイマーの元連続殺人犯VS新たな殺人犯』一体その行方は??
韓国の。同名小説の映画化。
近年で言えば『明日の記憶/渡辺謙』や『アリスのままで/ジュリアン・ムーア』等。若年性アルツハイマーを題材とした映画作品というのは、えてしてシビアで哀しい作品が多くて。当方は多くを語れませんが『メメント』なんかが有名ではありつつも、やっぱり不可逆性な病の進行に依って自我が崩壊していく様を切なく描く作品が多かった。そんな中。
「いや。『おじいちゃんはデブゴン』がある」
昨年2017年日本公開。香港の人気俳優サム・ハン・キンポ―監督&主演作品。
「かつては名うての軍人だったお爺ちゃんが…認知症になって。でも大切な隣人(少女)を守る!!記憶は飛んでも体はかつての動きを覚えているぜ!!」という、切なくともおかしい作品。今回この作品を観たのと同じ映画館に昨年観に行きましたが。
意外と。この手の題材を湿っぽくやりがちなアジアで。上手い題材として生かす作品がちょいちょい生まれている。
当方はあんまり韓国の俳優事情に詳しくないのですが。
『稀代のカメレオン俳優:ソル・ギョング』
主役のビョンスを鬼気迫る迫力で演じ。激やせし、49歳?には見えない老けっぷり。(後で普段の彼の画像を見て驚愕した当方)
『新しい殺人犯を演じた、実は警察官:キム・ナムギル』。
普段は爽やか枠なんですかね?映画館に彼の写真がプリントされた緑のお揃い手作りTシャツを着ている奥様方が居られました。「おお…こういう韓流マダムを初めて見た」色んな青春がある。けれど…もし当方の母親がそのスタイリングで外出したら、当方は文句を言いますね。家の中だけにしてくれと。
『愛娘ウンヒ:キム・ソリョン』
けなげで可愛いけれど。正直それ意外は凡庸なキャラクター。
『皆が大好き。オ・ダルス:警察署長』
またもや。全身から良い人オーラを漂わせて。あんなにも美味そうで汚らしく麺を食べられてはな…好きになるしかなくて。
良い役者を揃えた布陣。加えて秀逸な脚本。
街の獣医。一見社会的信頼の高い人物(と言っても気取っている感じでは無い)の、実は…という裏の顔。実は彼は元連続殺人犯。
「記憶を完全に失う前に」パソコンで夜な夜な綴られる、超個人的な備忘録。
「何故俺は殺人を犯したのか」少年時代の悲しいエピソードを皮切りに。「けれど俺は殺人を続けた」「世の中には生きている価値の無い人間が居る」主には家族や他人に暴力を振るう輩を。バレなかったのが不思議な呈で何人も殺害。そして町の外れにある、私有地である竹林に埋めてきた。
そして17年前。最後の殺人、遺棄の後。自身で運転する車。帰宅途中の道で起きた、横転事故。
「恐らくその時頭に受けた衝撃も、現在の脳障害の一因でしょう」
突然。顔の半身に起きる痙攣。それは健忘のサイン。また俺は何かの記憶を失っていく。
物語の始め。気付けば何故か件の竹林に居た。そしてとぼとぼ歩いている所を地元警察に保護される。
警察に迎えに来たウンヒに「これを使って」とレコーダーを渡される。何かと録音する癖を付ければ、何かと役に立つと。
「『おじいちゃんはデブゴン』でもレコーダーというアイテムは出てきましたがね。確かにお話を進める上で非常に有効みたいですが…多分…それを操れなくなる日も。ましてや携帯する意識も長くは持たない気がするぞ」そんな当方のチャチャ…小声で済ませますが。
アルツハイマーを含む、認知症という脳血管疾患の。未だ未知すぎる実態。何とも突っ込めないので…「言い方が悪いけれど…(物語的に)都合よく何かを忘れたり、思い出したりする感じ。ご都合主義と言ってしまえばアレやけれど…上手いなあ~とも思う」しどろもどろに語る当方。
「たとえ頭は忘れてしまっていても。体は染みついた行為を覚えている」主人公ビョンスの言葉。
獣医としての処置は完璧にこなせる。けれど。その回数は覚えられなくて。そうして本業も廃業。自分の行動に自信が持てなくなる日々。けれど。出会ってしまった。
「あいつの目。俺と同じ。あいつは殺人犯だ」
また。分が悪い事に相手のテジュは警察官。いかにビョンスが「あいつがこの町で起きている連続殺人犯やって‼」と警察で騒ごうが。普段迷子になってお世話になっている警察は信じてくれない。
初めこそ相手にしないようにしていたけれど。ビョンスの娘ウンヒの存在を知って。ウンヒに近づいて。恋人になって。グイグイビョンスと距離を詰めてくるテジュ。
愛する愛娘ウンヒが危ない!!そう思うと尚更躍起。けれど。どんどん進行していく健忘に、次第に自身の確信も揺らいでいく…。
最後の殺人。その17年前に一体何があったのか。果たして殺した相手は誰なのか。
そして。ビョンスの持つ『愛』という感情は。
兎に角主人公ビョンスの行動と、その不確かさに振り回され続ける118分。とは言え、ずっと息が詰まる感じでは無くて「詩教室のコミカル感」とか。意外とクスリと笑えるシーンも散りばめられている。
でもそうやって気を抜くと、またもや差し込まれる「あ。それが…」。お姉さんの下りとか…切なかったですね。そして「オ・ダルス‼」という胸熱。
「ところで。あの…最終決戦の件なんですが」ネタバレ回避はしたいので。歯切れが悪く。(小声で)でもどうしても言いたい当方。
「あの人の頭。どういう事ですか?」
当方は…当方だけが見たんですかね?幻なんですかね?あれ。
「あの人は…人間なんですかね?」「ターミネーターかなん…」
ストップ。ここで止めますが。
設定の妙。そして下手したらコメディやB級になりかね無かった題材を。巧妙な脚本と圧倒的な演技力で正統派に押し上げた。
「え?ラストが別のバージョンがあるの?」そんな情報も知って。下手したらずるずると沼に嵌りかねない。そんな奇妙な作品でした。