ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「火花」

「火花」観ました。


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板尾創路監督作品。又吉直樹の同名小説の映画化。

若手お笑い漫才コンビスパークス。ボケ担当徳永。とあるイケてない熱海営業で知り合った先輩漫才コンビあほんだら。ボケ担当神谷。その人柄に惚れ込んで弟子入り。

それからの10年。

互いに売れない芸人。もがいて。毎日語り合って。そうして過ごした10年。

徳永を菅田将暉。神谷を桐谷健太。神谷の彼女真樹を木村文乃が演じた。

 

言わずと知れた芥川賞受賞作品。既にドラマ化もされて。とは言え。何となく食指が動かなくて。テレビも動画も最近はあまり見ませんので。スルーしてしまっていましたが。

 

「イッツジーが好きだから」『板尾日記』も発売日に買っていた。板尾映画もきちんと追ってきた当方としては。見逃がす訳にはいかず。鑑賞してきました。

 

「まあ確かに。菅田将暉と桐谷健太を置いた事による安定感」

 

近年の活躍が目覚ましい菅田将暉。(勿論見えない努力ありきでしょうが)天才肌としか言いようの無い演技。センス。

若手芸人徳永。大阪から一緒に組んだ、相方と上京。鳴かず飛ばずでくすぶっていた。

そんな時。小さな祭りのチンピラ相手。もう演る意味すら分からない営業で。魅せられた先輩芸人。

 

神谷を演じた桐谷健太。

本人のリアルな人柄は存じ上げませんが。何故だか今回の神谷の様な印象のある役者。器が大きくて大らかな印象。

「芸人の間ではおもろいと思われているんやけれどな」

そういう一般受けしない芸人。間違いなく何らかの才能はある。でもそれは一般受けはしない。

縦社会の芸人社会で。後輩には貧しくてもカッコつけてしまう。そういう先輩を。時にはカッコよく。時にはみっともなく。演じていました。

 

出会って10年。

初めは互いに売れない芸人で。暇を持て余しているから毎日「笑いとは」を語り合って。

次第に…少しだけ売れてくるスパークス。かと言え本人たちにもそれは一過性のものであると分かる程度。

そして。少しずつ崩れてくる人間関係。

 

あくまでも焦点は主人公徳永と先輩神谷に当てられていて。そこに旬の役者がはめ込まれているのもあるので。見ていて面白い。

同郷のよしみもあってか。菅田将暉と桐谷健太の掛け合いも合面白いし息もっぴったり。

最後。売れてきたスパークスと、どうしようもなくなってしまったあほんだらの対比。

尊敬し続けてきた先輩が…何だか子供みたいになっていく様の切なさもじんと噛みしめて。(とは言え。あの乳の下りは引きました)

そういう二人の過ごしてきた日々。そういうのがメインの話であるとは思うのですが。

 

歳を取った当方は。どうしてもそこには意識を集中させる事は出来ませんでした。

 

「あの二人が過ごした10年。それを一緒に過ごした人は他にも居る」

 

例えば。木村文乃が演じた神谷の彼女。真樹。

大阪から上京してきた時。同棲していた彼女。売れない芸人の神谷には勿論金なんて無くて。そんな神谷を。風俗嬢をしながら養ってきた。

「え?彼女ちゃうで。同居人」「良い奴おったらそっちいったらええねん」徳永にはカッコつけて。結局は真樹を大切に出来なかった神谷。

いつかはきっと。一緒に幸せになれる。ちゃんとしてくれる。真樹はそう思って待っていたんやろうと思うと。悲しくて。

中盤。真樹の取った選択は正しかったと思うし、そこで女々しかった神谷に「覆水盆に返らず」「因果応報」としか言えなかった当方。ほんまあほやなあ。

 

そして。徳永と神谷の相方。

 

ピン芸人では無い二人。どちらもコンビを組んで、どちらも相方が存在する。

 

当方はお笑いの世界に足を踏み入れた事はありませんし。コンビというものがどういう関係性を築いていくものなのか分かりませんけれども。

 

スパークスの相方。山下の目線に立った時の10年」

 

こいつと一緒に居ったら面白い。天下を取れるとコンビを組んで。一緒に上京。自分の彼女も自分を信じて一緒に上京。

ネタを作るのは相方で。ネタを作る才能は無いから相方の世界観でやるしかない。意見は言うけれど、お前はネタを作れるのかと言われたら作れないし、あんまり大きな事は言えない。でも。段々不安になってくる。俺たちは本当に面白いんか。

彼女との付き合いが長くなっていく中で。どうしても意識していく『結婚』でも。自分は家庭を築ける人間か。

自分からしたら。無駄に重ねていく芸歴。売れていく後輩。お笑いで売れるのは一握り。そうは分かっているけれど…。分かっているけれど。

 

相方が心酔する先輩芸人。自分の居ない所で二人でとことん話込まれるお笑い精神論。馬鹿にされ、置いていかれる自分。コンビを組んでるのは俺なのに。「じゃあお前らがコンビ組めよ」

 

相方山下が。そんな事を言い出すシーンはありませんでしたが。唯一あった台詞「神谷さんに入れ込みすぎやろ」山下が絶対に思ったはずの流れ。

 

そして。あほんだらの相方。大林の懐の深さ。

 

何で売れないんだとくすぶる徳永と神谷を。きちんと支え続けた人達。その人たちが余りにもさりげなさ過ぎたから。だからこそ徳永と神谷はとことん好き勝手言えた。

 

でも。そんな時間はいつまでも続かない。

 

スパークス最後の漫才。あの圧倒感。それは流れを畳みかけ続けた徳永もさることながら。ずっと支え続けた山下あってこそ。

菅田将暉の演技力もさることながら。現役の芸人2丁拳銃川谷の。役者としては朴訥とした雰囲気で重ねてきた、山下というキャラクターの足がきちんとついていたと思った瞬間。

 

一瞬。明るく燃え滾った。そしてその光は消えていこうとしているけれど。

 

俺たちの光は続いていくんやと。出会った熱海の居酒屋で。10年後の神谷がまた熱く語っている姿を見ていると。どんなに堕ちようともやっぱり憎めなくて。

 

そうか。これはこういう話やったのかと。

何だか胸が熱くて。切なくて。

 

じんと切なくなりながら。幕は降りて。そんな二人を見届けた当方。