ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「おじいちゃん、死んじゃったって。」

おじいちゃん、死んじゃったって。」観ました。
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森ガキ雄大監督作品。

彼氏とのセックスの途中に掛かってきた訃報。

父方祖父の唐突な死。とはいえそれなりに高齢。驚くほどでは無いけれど。

ボケボケのお婆ちゃんを残して逝ったお爺ちゃん。

 

「お爺ちゃんが死んだ」それなりに衝撃は受けたけれど。お通夜。お葬式。自分の親も久しぶりに会った親戚もやるべき行事はこなすけれど。あんまり悲しそうじゃない。

でも。自分だってお爺ちゃんが死んだと聞いた時はセックスをしていた。

 

 何だか気になって。でもなかなか鑑賞出来なかった作品。

満を持して。ようやく劇場鑑賞する事が出来ました。

 

 

大人になって。人の生死に関わる職に就いて。だから正直、この作品についても「甘いな」と思った部分はありました。はっきり言って生前関わりが無かった親族こそが色んな事に大騒ぎするといったセオリー。

残されたお婆ちゃん。認知症があって。一人では生きていけないお婆ちゃんに対し、あの父親のスピーディーな対応。それに冷たい、システマチックだというのか。じゃあ、普段関与していない他の兄弟の何も行動していない姿は美談か。およそ一人で生きていけないお婆ちゃんに、一人で死ねというのか。

 

「私はお爺ちゃんが死んだ時セックスをしていた」そこに引け目があって。何を言っても白々しいんじゃないかと、引け目を感じる主人公。

 

何を言っているんだと。兎に角冷たい当方。じゃあ、貴方はお爺ちゃんとお婆ちゃんが生きている時にそこに足しげく通ったのか。貴方は祖父母の家に比較的近くに住んでいるんでしょう?

 

親戚の死に目に会えなかった。でもそれは心から申し訳無いという気持ちじゃない。

「命が終わるときに、自分は快楽に溺れていた」その引け目。誰かが苦しんでいる時。そっと幕を引く時に。こんなの不謹慎じゃないかという気持ち。

 

「でもねえ。それでいいんだと思いますよ」

 

誰に対しても。数多の対象についても悔いの無い日々。明日己が居なくなったとしても、何の悔いも無いと言える人生。そんなの、誰が送っているというのか。

 

お爺ちゃんが死んだ。

 

動揺する親族一同。慌てふためいて。

お爺ちゃんが逝った。その時に。お爺ちゃんに見せられる自分では無かった。

妻子に逃げられた。早期退職させられた。遠くに居た。彼氏とセックスしていた。未来が見えなくて。そんな自身の事で一杯。こんなはずじゃなかったのに。

 

まあ。そんな深刻な感じじゃないんですけれどね。

 

喪主の長男が岩松了次男光石研。これだけでお楽しみなのに。歳の離れた妹に水野美紀って。どんな面白兄妹かよと。

案の定。通夜も葬式も。黒い汗流しながらどこかコミカルで。

でもそんな兄妹のじゃれ合いも。多分最後。コミカルな兄弟げんかに笑っていて。ふっと過る「お終い」の気配。

 

この家族に於いて、お爺ちゃんが死ぬという事は。一族にとって田舎の消滅に値する。

 

「誰が誰か分からない」状態になっているお婆ちゃん。そんなお婆ちゃんをずっと面倒見ていたお爺ちゃん。そのお爺ちゃんが居なくなって。一人になってしまったお婆ちゃん。

 

作中では、お通夜とお葬式を邪魔したり、かと言えば納棺の時に思いがけない声を出したお婆ちゃん。

 

お爺ちゃんとお婆ちゃんは一心同体。

お爺ちゃんが居なくなる時。お婆ちゃんもまた。一族の皆にとって遠い存在になってしまう。そういう選択をしたから。そして。お婆ちゃんにとっても最早繋がりの無い人達だから。

 

ボンクラの長男と次男が取っ組み合いのけんかをしても。何度もそんなシーンはあったのに。ずっと「どこのどなたか分かりませんが」と言ったお婆ちゃん。お爺ちゃんは認識しても。自身の子供も孫も分からなかったお婆ちゃん。

 

切ないなあ…。泣く当方。

 

当方の両親は、どちらも田舎の大家族の末っ子で。祖父母共、当方が産まれる前や子供の時、社会人一年目に他界しましたが。

 

「お婆ちゃん。いっつもくしゃくしゃのお金を小遣いにくれたよな」

 

主人公の弟の話にボロボロ涙があふれた当方。当方の両親の田舎はどちらも遠くて。祖父母とは夏休みにしか会えなかったけれど。お婆ちゃんはいつもお別れの時に泣きながらお小遣いをくれようとした。それを思い出して。

 

滅多に会えない祖父母が亡くなった時。田舎やし、家から葬式を出したけれど。そこで集まった親戚の事。男たちは酒を飲んで騒いで畳の上で寝てしまって。女たちはご飯を作って。だらしない男達にやれやれと溜息を付いて。故人を思ってしんみりして。子供達は何だか分からないけれど騒いで。そして。

 

あれからもう、全員が集まる事は無い。

 

(余談ですが。当方の田舎では夫が亡くなった時、妻は焼き場にはついていかない。家で待つという風習もあったみたいです。)

 

全体としてはどこかコミカルなのに。ふっとどこかを押されて、泣けて仕方ない当方。どうしたもんだか。

 

お爺ちゃんが死んだ時セックスしていた云々については、個人的にはかったるいなあと思っていたので。

お坊さんが当たり前な事を言ってくれて良かった。だって、生きるってそういう事ですから。

 

正直「今終わってもいいんじゃないの」「ちょっとここは要らないんじゃないの」「真夏に獅子舞が来るの」なんて。思ったりもしましたが。

 

思っている以上に…侮れない。気付いたら泣いていて。しみじみとしてしまう作品。見逃してしまわなくてよかったと思うばかりです。

 
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