ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ノクターナル・アニマルズ」

ノクターナル・アニマルズ」観ました。
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トム・フォード監督作品。

アートディーラーのスーザン。夫、一人娘の家族構成。とはいえ娘は独立。夫の事業はジリ貧で末期状態。夫婦仲は冷めきっていて。

そんな中。かつて学生結婚し、直ぐ様離婚した前夫(小説家志望)から20年振りに届いた小包み。中身は小説。

「スーザンに捧ぐ小説。是非とも読んで欲しい」

思いがけず暴力的な内容。スーザンはその小説にぐいぐいと引き込まれていって…。

 

主人公スーザンにエイミー・アダムス。元夫エドワードにジェイク・ギレンホールを於いて。

 

「一体エドワードはスーザンに何を伝えたいのか。愛か?それとも…」

 

トム・フォード作品と言えば『シングルマン』。エレガントの代名詞と言っても過言ではないコリン・ファースを終始愛でる作品。
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(勿論当方のiPad内にも入っています)

 

美しい。でも。決してそれだけでは無い、そんな前作から。期待を込めて観に行きました。行きましたが。

 

冒頭。アートディーラースーザンの扱う『アート』の披露。…当方は露悪的に感じました。

身も蓋も無い言い方をすると「こういう醜い人たちがこんな動き云々」ですか?…確かに彼女達は美しくないけれど。かと言って笑われるいわれも無い。

(作中で見せられるスーザンの扱うアート作品の幼さに違和感を感じた当方…特に目新しくも無いし)

 

まま成功したお金持ち。自身の事業は安定。ハンサムな夫と娘。インテリジェンスの高い、一見満たされた生活。でも。

 

蓋を開けてみれば。経済的にも精神的にも破綻しかけている夫婦関係。危なっかしい経営状況。

 

そんな時。送られてきた、元夫からの『スーザンに捧ぐ』小説。

 

 夫、妻、娘の三人で。休暇を楽しむため夜間走らせていたハイウェイ。

夜中。暗い道で。遭遇してしまった、最悪の煽り運転。かわせなくて。最悪の結果に導かれた夫。亡き者になってしまった、愛する妻と娘。

あの夜の事を。決して泣き寝入りしないぞと。地元警察官とタッグを組んで犯人を追い詰める夫。

 

そんな主人公の視点で進む小説。その世界に何故か激嵌りするスーザン。

 

「でも。どこまでその小説世界に自身がフィットするのかというと…別にスーザンとエドワードにそういう思い出がある訳では無いんよな」

 

さくさく話を進めますが。

 

「つまりはスーザンの虚栄心、傲慢さへの元夫からの復讐ですよね」

 

実際は驚くほど惨め。一見成功している事業のワンマン振り。(実際、スーザンが扱っているのは当方には中二的であからさまな作品に見える)冷え切った夫婦関係。疎遠な娘。

そんな中で。『今思えば素朴で誠実であった元夫』からの小説。

 

一緒に居た時にも青臭い小説を書いていたけれど。現在のすっかり成熟した彼に依って描かれた小説は、あの頃とは違う。読み進めるにつれて『こちらを選んでいたとしたら~』という、たらればがどんどん押し寄せてくる。

 

「しかもエドワードは今度会って感想を聞きたいとまでメッセージを送ってくる。これってあれなの?まだ私を想っていてくれているって事?あんなに酷い事をした私を?」

 

スーザンふざけるなと。冷たい当方。

 

「近年のギレンホールに外れ無し」
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元夫。尚且つ小説の主人公である彼の演技は流石でしたが。

 

「あれやな。小説世界のチンピラを演じた『アーロン・テイラー・ジョンソン』。あの憎たらしさよ!…最高やった!」
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 もう何もかもが憎たらしい。飄々としていて、尚且つ狡猾。

 

「あの夜のハイウェイのシーンの怖さ。一本道とは言え、そもそも外灯一つ無いあんな道を夜に走ろうっていうのが怖いわ」案の定。あんな輩に遭遇したら…終わりですよ。
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小説の世界は荒々しい展開を見せるけれど。それを追うスーザンの住む現実の薄っぺらい事。ハイソな生活。綺麗なモノに囲まれて。けれどそこには生活感は無い。人間関係にも血が通わない。およそ楽しみを見出せない、そんな環境。でも。

それを築き上げたのはスーザン自身。

 

「後ねえ。エイミー・アダムスってナチュラルでこそ映える女優さんやなって確認したな。はっきり言って、厚化粧も服装も全然似合わない。老けて見える。」
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観も蓋も無い意見なんですが。正直、当方がこの作品に嵌れなかった最大の理由。

エイミー・アダムスが綺麗に見えない』

回想シーンでの彼女は良かったですけれど。如何せん、全体からは彼女の魅力は伝わらず。

 

「まあ。そうやって変わっていったスーザンを。虚栄心の塊で醜いモンスターになった彼女を表しているのだとするなら…確かにあの冒頭にも繋がるんやけれど。」

 

最後は非常に納得のいく着地。そりゃあそうだろうなと。この結末ありきで書かれた小説なんだから。…随分と手間の掛かる事をするなあと、となるとエドワードも大概な奴だなあと思ってしまいましたが。ともあれ。

 

「別れた相手から送付けられた何かなんて碌なモノじゃないよ。絶対に目を通すな!」

 

その教訓だけは、しっかりと受け取りました。
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