ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「三度目の殺人」

三度目の殺人」観ました。


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ある夜起きた殺人事件。工場経営社長山中が何者かによって殺害。その死体には火が放たれる。捕まったのは、殺人の前科がある元工員の三隅(役所広司)。

犯行を認めており、死刑はほぼ確実。しかし何とか無期懲役に持ち込みたい、弁護士の重盛(福山雅治)。

何てことのない裁判。ただ量刑を争うだけだったのに…三隅の供述は二転三転。振り回される法廷関係者の面々。

その時。山中の娘咲江(広瀬すず)が重盛達に衝撃の告白をしてきて…。

是枝監督最新作。今回はまさかの裁判劇。(法廷シーンは少なめ)

まさかの…は言い過ぎですかね。でも。是枝監督と法廷サスペンスモノって合わない印象がありましたから。それがそれが。きちんと。硬質で。哀しい話に仕上がっていました。

 

「藪の中だ…」

 

「何故山中を殺したのか」その動機に、初め全く焦点を合わせていなかった重盛達。

「工場を辞めさせられての腹いせだろう」「金品を奪いたかったんだろう」お決まりの動機を誰もが決めつけていた。なのに。

何だか定まらない三隅の供述。挙句「社長の奥さんに頼まれました」と委託殺人であったかの様な事を言い出して。

「真実なんてどうだっていいんだよ」そう言って。兎に角勝てれば良いんだという信念を持っていた重盛が。

何度も三隅と接見し。三隅の身辺を探るうちに、己の信念とも向き合っていく事になっていく。

 

「しっかし。これ、役所広司のイキイキとした感じ。楽しかったやろうなあ~。」振り返ってみて。ニヤニヤと思う当方。

ファンの皆様総立ちでお怒りになると思いますが…(小声で)福山雅治って、特に演技が上手い訳じゃ無いじゃないですか。でも。

役所広司起用の妙。この手練れの老練俳優が三隅という犯罪者を飄々と演じる事で。役所広司に引っ張られるようにして、高みに連れて行かれた福山雅治。そんな印象。

三隅の持つ「なんやねんこいつ」「なんやねんこいつ」その気持ち悪さ。

殺人犯とは思えない、一見穏やかな物腰。理性的(に見える)話し方。なのに。結局何を言っているのか分からない。何を信条としているのか分からない。

「あいつはねえ。『空っぽな器』ですよ」昔三隅を捕まえた警察官の言葉が良い得て妙。確かに三隅からは何も得られない。三隅には元からは何も盛られていない。そこに何かを盛るのはいつも他人。

 

「金品を目的にしていたのか」「怨恨か」それを焦点にしようとしていた矢先。降って沸いた「山中社長夫人が三隅に殺人を依頼した」週刊誌の独占スクープ。「何でだよ!」唐突すぎて。「そういうことは早く言ってよ!」と怒りながらも。「それ、使えるな」と飛びつく重盛達。

そして山中社長の家族を改めて見てみると。意外にも娘の咲江と三隅に交流があった事が判明する。

 

広瀬すず。完全に同世代の女優の中でも頭一つ飛び出したな…。今でも十分にアレやけれど。末恐ろし過ぎる」

元気一杯な役が多い印象やけれど。是枝監督作品「海街diary」でもそう思った。広瀬すずは、何処か影のある役にこそ未知数の役者だと。

 

生まれつき片足が悪く。いつも足を引きずっている咲江。でも幼い時「足が悪いのは工場の屋根から飛び降りたから」と周りに嘘を付いていた。

三隅と咲江が一体どう繋がっていたのか。30年前に犯罪を犯し、服役していた三隅には足の悪い娘がいた。その娘と咲江を重ねたのか。では咲江は三隅に何を求めたのか。

 

終盤。咲江が「法廷でお話ししたい」と重盛達に持ってきた告白。

咲江の告白を三隅に話し。憤る三隅。「あの子はねえ。嘘ばっかりつくんですよ!」そしてまた翻った供述。

 

「真実とは何か」

 

咲江の告白が本当であったとしたら。咲江の為に行われた殺人だったとしたら。でもそれすらも分からない。咲江は誰を救おうとしたのか?母親?三隅?…自分?

 

「真実とは何か」

 

法廷に真実など必要ない。ただただ量刑を決める場所であると息巻いていた重盛が。

「一体何が真実か」と追い求めていく様になる。

なのに。探しても探しても。相手は『空っぽな器』。

真実は「藪の中」。

 

「でもねえ。真実って果たして何なんんでしょうな」溜息を付きながら椅子に沈む当方。

 

一体誰にとっての真実なのか。誰にとって都合の良い真実なのか。どういう正義があったのか。無かったのか。

法廷とは、誰をどう裁く場所なのか。

 

三度目の殺人」なかなか意味深で秀逸なタイトル。

 

まあ無粋な事を言ってしまうと「法廷で争う時の状況証拠が犯人の供述だけって事は無いやろう。いくら何でも鑑識とかも何か掴んでいるやろうし。日本の国家権力の科学力を舐めてはいかんぜよ」とは思いましたが。(後。重盛の娘とか…扱いが中途半端かなあ)

 

とは言え。これまでで完成されていたと思っていたやり方を。がらっと変えた是枝監督には敬意を表しますし(何様だよ。そしてつい最近見た、当方のこのフレーズ)これからの作品も楽しみだなあと思った是枝監督作品でした。