ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「幼な子われらに生まれ」

「幼な子われらに生まれ」観ました。
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40歳。バツイチの主人公、田中(浅野忠信)。同じくバツイチで二人の娘を持つ奈苗と出会い、再婚。

『善き夫。善き父親』であろうと。仕事より何よりも家族を最優先。

妻の妊娠。

めでたいはずなのに。幼い次女は喜んでくれたのに。難しい年齢の長女との関係は、それを機におかしくなってしまう。

 

重松清原作。道理で…」主人公田中を追い詰める状況。仕事。家族。妻の元夫。そしてかつての家族。全方位から押し寄せる、容赦ない圧迫感。観ている方もどんどん息苦しくなっていって。

 

「娘と一緒に居られる時間はあっという間ですから」会社では定時退勤。飲みの誘いも受け付けず。手土産にケーキを買って真っすぐ帰宅。

「なかなかサラリーマンでそれが出来ている人は居らんで~」素敵な事だとは思いますが…案の定、工場に出向(左遷)させられる田中。

家族優先とはいえ。仕事が傾けば家族の経済基盤が破たんしてしまう。そんな不安。

なのに。その大切な家族事体がグラグラに揺れ出して。

 

「あの長女…憎たらしかった」

思春期。反抗期。自身も心身共に成長していく年齢。そんな時に母親が妊娠。何も分かっていない妹は能天気に騒いでいるけれど…色んなフラストレーションがふつふつと湧いて。抑えきれなくて。

「いや。分からんくは無いんやけれどな。でも…余りにも子供すぎる」

「子供が生まれたら、私たちは捨てられるんだよ」幼い妹にまでその矛先は向いて。

そして挙句の果て。「本当のパパに会わせて」と言い出す始末。

 

田中と前妻との間に生まれた娘。前妻に引き取られた娘とは、今も月に一回会っていて。

でも違う。田中と前妻友佳と、今の妻奈苗と元夫沢田の関係性は全く違う。

沢田の暴力。最終的には長女にまで手を上げた事で破たんした夫婦。

「もう死んだのと同じよ」「あの子が沢田に会いたいなんて言う訳が無い」奈苗が言う様に、長女が会いたいなんて思うはずもない人物。

ただただゴネたいだけ。この収まらない気持ちをぶつけたいだけ。そして父親を最も嫌な言葉で傷つけたいだけ。

「じゃあどうしたいんだ」イラつく当方。

長~い目で見たら、これは時間しか解決出来ない事なんやろうと思う当方。今すぐ皆がすっきり出来る解決策なんて無くて。あの長女の態度も言葉も物凄くムカつきましたが、これをずっと抱えて言わなかったらそれはそれで歪みそう。

ただ…親しき仲にも礼儀ありというか…言葉って心に残るから、家族とはいえ何を言ってもいい訳じゃない。となると、長女のやっている事は正に覆水盆に返らず。

いつか大人になった時「子供やったな」と思う日が来ると当方は思うけれど…その時の自身の居場所を今壊している事になってるよ…という痛々しさ。それが堪らなくて。

 

田中麗奈扮する奈苗。これがまた「べったり依存系主婦」

ベタベタした喋り方。(絶対一人で立てる強さがあるのに)誰かにすがって生きて行きたいタイプ。ああ嫌い。当方の苦手なタイプの女性。

(本当はあの長女はこの母親に怒りをぶつけたいんやろうな、と思った当方。でも出来ない。それをしたら本当に取返しが付かなくなると感じているから。だから言いたい事を父親に言っているんだろうなと)

 

そして奈苗の元夫。沢田。(宮藤官九郎

「ちくしょう。クドカン。最低やのに…最高やないか」泣く当方。

「あいつねえ。すがってくるでしょう。鬱陶しくてね。」「あいつの嫌がりそうな事は全部やりましたよ」「あいつと結婚して良かった事なんて何も無かったですよ。子供が生まれたらもっと悪くなった」

呑む喰う打つ。女にも手を出して。常にイライラ。奈苗に暴力を振るって。

(2004年のクドカン初監督作品『ドラッグストア・ガール』の主人公が田中麗奈でしたね。確かあの時「田中麗奈さんが大好きで大好きで…」と語っていたクドカン。そんなクドカンがまさかの田中麗奈に暴力を振るう役なんて…)

長女が本気で会いたい訳が無い。でももうどうしていいのか分からなくて。沢田に会いに行った田中。でも会うたびにただただ沢田のクズっぷりを見せつけられる田中。
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「なのに…」

あのデパートの屋上で。そこに現れた沢田に、思わずタオルを口に押し当てて泣く当方。あんなの…ずるい。

暴力も何もかも。沢田のやった事に同情の余地など無い。でも。彼が田中に語ったのは結局は虚勢。語らなかった、沢田にしか分からない『かつての家族』への気持ち。

 

「あの時ああしていなかったら」

夜。コンビニの駐車場に停車した車内。田中の前でひたすらそう連呼した田中の前妻、友佳。

「あの時~していなければ」でもそんなたらればには意味が無い。全て自分で選んで今がある。分かっている。そんな事は。分かっている。

「貴方は理由は聞くけれど。気持ちは聞かないのよね」

いつもそうだったと田中を責める友佳。

「いや…結構貴方の行動よく分からんかったけれどな」12年前の二人を見てそう呟く当方。

 

「一体どう決着をつけるつもりなのか」

 

結局。崩壊寸前まで追い詰められた田中家を救ったのは、かつての家族。

 

ところで。この田中家のある、独特な集合住宅。「知ってる」

そしてエンドロールのロケ地で「西宮名塩」のテロップに頷く当方。

子供の時。週末と言えば、車で色んな所に連れて行ってもらった当方。一家でドライブ。その時、高速道路でよく見かけたあの住宅地。

恐らく。かなりの急斜面に所狭しと建てられた家々。それらを繋ぐケーブル。

「ああいう風になっていたのか~」いつも車内から見ていたその町を。新鮮な気持ちで見た当方。

(因みに、夜はそのケーブルに明りが灯るので。「きらきらしてきれい」と思って見ていた幼かった当方)

 

つぎはぎで出来た家族。一見上手くやっていたけれど。新しい家族が増える事で起こった新陳代謝。それは家族皆に痛みが伴ったけれど…そうやってまた深まった絆。

 

そして父になる」「そして家族になる」

 

いつか。あの憎たらしかった長女も含め、家族の皆で穏やかに笑い合える。幼な子はそんな希望でありますようにと。祈るばかりです。