ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ダイ・ビューティフル」

「ダイ・ビューティフル」観ました。


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フィリピン映画。

2014年。フィリピンで起きた『ジェニファー・ロード事件』

トランスジェンダーであるが故に殺されたジェニファー・ロード。それに対し「トランスジェンダーは殺されて当然だ」といったフィリピンの恐るべき世論に対し、作られた作品。

 

「ミスコンの女王」トリシャ。遂にミスコンのトップに輝いたその日、急死。

 

生前彼女が言っていた「私が死んだら葬儀までの7日間、毎日日替わりで有名人の化粧をして」

 

遺族によって、男性として葬られようとされていた彼女の遺体を、友人たちは「盗み」。

彼女の親友を始め。心優しい仲間達がトリシャの願いを叶える中。その死化粧をとある人物がフェイスブックに挙げてしまった。そして瞬く間に注目の的となってしまい…。

 

フィリピンの「ざわちん」と呼ばれる、人気司会者かつメイクアップ・アーティストのパオロ・バレステロスを主演に据えて。

 

殆どが悲しいエピソードなのに。でも何だかおかしい…そんなトリシャの人生を描いた作品。

 

自らもゲイであると公表されている監督。対談で「フィリピンの…所謂オネエが騒々しい感じだとは描きたくなかった」(当方意訳)みたいな事を語っておられましたがね…いやいやいや。十分に騒々しくて…そして逞しかったですよ。(良い意味で)

 

高校生の「パトリック時代」

もう自身の性の不一致には気づいていて。そしてそこに関するアイデンティティーの葛藤には決着が付いている。ただ。父親にはどうカミングアウトすればいいのか分からない。そんな中で。最も知られたく無かった形でのカミングアウト。案の定、理解してくれる訳も無く。家族との別れ。

 

同じく「パトリック時代」

大好きで、片思いの男子。恋い焦がれていた…それが踏みにじられた日。

 

パトリックからトリシャへ

親友バーブスと共に行動。生活してゆく為。そして自身が周りから認められる為。

そういう事務所?的な所に所属して。フィリピン内の数多の「ミスコン」に参加していくトリシャ。良いところまで行くけれど、惜しい所で落ちてしまう日々。

(レギュレーションがイマイチ不明ですが…審査の中にランダムな「質疑応答」があって。それに対して模範解答が出来ない、苦手だからいいとこ止まりなんだみたいな事言ってましたね)

 

友人が亡くなって。孤児になってしまった少女を引き取り育て上げた。娘との日々。

 

恋をして。いつだって全力で尽くして。優しくしてくれるけれど…満たされない。

哀しい裏切り。

 

そんなエピソードを、時系列をかなりシャッフルして展開していました。

(正直「そこまで細かく話を行ったり来たりしなくてもいいかなあ~」とは思いましたが)

 

兎に角、主演のパオロ・バレステロスが凄い!!

 

ガタイが良いんですよね。加えて精悍な顔立ちなんで男性パトリック時代もぱっと見かなりカッコいい。でもメンタルは完全な女子なんで仕草も女子。

「それでも。こんなにはっきりとした男顔なのに…」それが。流石メイクアップ・アーティスト。トリシャのメイクを自分でしていたとのエピソードに驚く当方。

 


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「めっちゃめちゃ綺麗やないか!!」

 

ここまで迫力があるビジュアルなら…確かに「ミスコン」向けやなあと。

 

まあ、見た目だけじゃなくて。パワフルで一所懸命なトリシャのキャラクターに血が通っている。

身寄りの無い孤児を引き取って。愛情一杯に育てた。好きになった相手にはとことん尽くした。友達を、仲間を大切にした…でも。

 

自身の生き方を選ぶ時、父親は自分を認めてくれなかった。幸せなはずの、好きな人との初体験。なのに。愛する相手の裏切り。

 

愛されたいと。もがき続けた人生。

 

「貴方は十分に愛されていたと思いますよ」皆から。娘から。そして友人から。

 

トリシャの親友。バーブス。

 

高校生の時からの親友。同じくトランスジェンダーで。同じ頃に高校をドロップアウトして。ミスコンに出るトリシャのメイクを施して。一緒に豊胸手術を受けて。ずっと行動を共にした親友。

 

辛い時も、楽しい時も一緒に居た。高校の時。傷ついたトリシャを病院に連れて行ってくれた。トリシャの彼氏が寝取られた時も、一緒に怒鳴り込みに行って殴ってくれた。

一緒に笑って。泣いた。
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バーブスが亡くなったトリシャにメイクをする時の顔の切ない表情…」
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思い出しただけで当方のやらかい所が締め付けられます。

 

トリシャの生き方。親に勘当され。自分らしく生きる事を選択した。愛し愛される時はいつも短くて、寂しい気持ちになった事もあった…かもしれない。でも。

彼女には家族が居た。きちんと育て上げた一人娘。そしてかけがえのない親友が居た。

 

バーブスあってのトリシャの輝き。

 

「そう思うと。トリシャが荼毘にふされた後、バーブスの胸にどっと来る寂寥感」

想像しただけで泣きそうになりますが。

 

この作品全体を通して言えるのが「どこか底抜けに明るい彼女達に」救われますね。

エピソード事体はネガティブな事が多いのに。彼女達はそれに打ちのめされてうじうじと引きずらない。悲しみも噛みしめるけれど。また笑って。ガンガン前に進む逞しさがある。だから。

 

若くして亡くなったトリシャ。悲しいけれど。目一杯全力で駆け抜けて、燃え尽きたのならば…それは素晴らしい人生であると思うし、きっと残された者達の中でトリシャから受け継いだ何かが行きて行くだろうと。

 

最後のメイクを。トリシャの姿を見て。言葉を聞いて。

お別れなのに。何だかしっかりと前を向いて、明るい気持ちで見送れた。そんな感じがしました。