ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「マンチェスター・バイ・ザ・シー」

マンチェスター・バイ・ザ・シー」観ました。
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2017年米アカデミー賞主演男優賞脚本賞受賞作品。

 

「しみじみと胸に染み渡る」「必ずしも人は無理やりに前進しなくても良いんだと思った」「兎に角素晴らしい」

公開後。一気に溢れた皆さま絶賛の声。何故かなかなかスケジュールが合わなくて。公開から随分経ってからやっと、観る事が出来ました。

 

「これは…心が弱っていたらえぐられるやつか?」なんて、ちょっと構えてしまいましたが。

 

「ああ。これは…凄く静かな作品やな。そして主人公リーの気持ちに痛いほど共感出来る」

観ている者に寄り添う映画…では無く、観ている者が寄り添う映画。

 

ボストンでとある集合住宅の便利屋をしているリー。男やもめ。腕は良いがぶっきらぼう。ひっそり誰とも関わらずに生きていた。

そんなリーに突然舞い込む、兄ジョーの急変。兄は随分前に心臓の持病が発見され、何度も入退院を繰り返していた。急いで故郷のマンチェスターに向かうが、結局ジョーの死に目に会えず。遺体とのご対面。

ジョーは離婚し、一人息子の16歳、パトリックと暮らしていた。

ジョーの遺言から「リーにパトリックの後継人を頼む」との内容があり。全く知らされていなかったそれに、動揺するリー。

パトリックと住むためにはリーはマンチェスターに戻らなければならない。

しかし…リーにはマンチェスターには戻れない理由があった。

 

「家族を失うという事」

当方は父母、妹の4人家族で。悲しいかな、当方も妹も独身貴族なので、もしこのままの家族構成で進んで、4人の家族の内誰かが減っていく…それを考えただけで胸が苦しくなりました。

かつて一緒に暮らしていた白猫。18年の寿命をきっちり生きてくれたのですが、彼を失った時「もう二度と笑えないだろう」というほど打ちのめされた当方。

でも。不思議な事にその白猫に対して「ああしてやれば良かった」という後悔は微塵も無くて。最後に彼が弱った時の対応すらも、今でもたらればは無い。

なので「もう会えない事が寂しい」という一点の悲しみ。でもそれは当方の心を強く強く刺したり締め付けたりした。(今でもそういう気持ちに時々なります)

でも。やっぱり「時が解決してくれる」

悲しくて。やるせなくて。こんなにも思っているのに会えないなんて。そう思っている気持ちは、時の流れがゆっくりと宥めてくれる。また笑える日は来る。

 

ただ。その「時」には個人差がある。

 

確かに脚本賞だなと感心した、細やかで交差した展開。何故今のリーはこんなにも心を閉ざしているのか。それをゆっくりと丁寧に描いていく流れ。

リーにも愛すべき家族が居た。笑い合って。馬鹿な事が出来る仲間。兄ジョーと、その息子パトリックとの船に乗って。そんな楽しい日々。なのに。

「ああ。こんな事が」中盤。リーに起きた事の全貌が明らかになった時。息を呑んで…そして溜息を付いた当方。これは辛い。辛すぎる。

 

「神様いっそ自分を殺してください」

 

でも。リーは死ななかった。その代わり、彼の心の中の何かが死んだ。

辛すぎて。もうマンチェスターには住めない。ボストンに引っ越して。それをずっと後押ししてくれたのがジョー。自分だけじゃない。町の皆からも好かれる人格者。

 

甥のパトリック。「おいおいお前…」と言わんばかりのリア充。彼女?も二人居て。アイスホッケーにバンドとモテる要素満載。友達も多くて。

 

「お前の親父が死んだんじゃないのか」と思わずツッコミそうになる、通常運行の生活を送るパトリック。

でも。彼だって傷ついていない訳じゃ無い。それが分かった時、何だかほっとして。パトリックが愛おしくなった当方。

 

マンチェスターに残って今まで通りの生活をしたい」というパトリックと「とてもじゃないけどマンチェスターには住めない。ボストンに戻りたい」というリー。

ジョーだって、リーが後継人としてやっていける様にと多くの手はずを生前に整えていた。便利屋だってそんなに思い入れのある仕事じゃない。正に「リーの気持ち次第」の状態。

リーだって、パトリックの気持ちを踏みにじりたい訳じゃ無い。甥が可愛くない訳が無い。でも。どうしても辛い。自分の居場所はここ(マンチェスター)には無い。

 

そこで再会する、元妻ランディ。

 

「恐らく、この気持ちを近い所まで共有出来ていた妻が。前に進んでいる」

この孤独感。絶望しかない、孤独。でも。

 

再会から暫く経って。妻とばったり道で会って。実際に話をした時。間違いなくリーは救われた。

(当方の涙腺決壊)

 

悲しみを乗り越える。容易い言葉ですが。「乗り越える」という事は「何もかも忘れる」事では無い。

悲しみを抱えながらも、日常をこれまで暮らしていたレベルに近い所まで持って行く事。その時間や進み方は個人差があるし、一人で立ち上がれる人が居れば、誰かの後押しが要る人も居る。立ち上がれない人も居る。でも。

 

リーは立ち上がれる。これはそのはじまりの話。

 

パトリックが操縦する船に乗って。そこで初めて笑顔を見せたリー。

リーの閉ざされた心が少し開いた、そんな終盤。

 

リーが決断した判断が、確かにベストアンサーであったと思った当方。

 

リーがパトリックに言った。いつかそんな未来が来たらいいなと。

そう願わずにはいられません。