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ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「たかが世界の終わり」

「たかが世界の終わり」観ました。


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第69回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品。若き才能。27歳グザヴィエ・ドラン監督最新作品。

「一体どれくらい振りやろう。立ち見で映画を観るなんて…って、はっきり覚えている。『キャンディ』再上映以来だよ」

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(キャンディに関しては割愛。一見お洒落に見えて「フリーセックス万歳」な内容。全身の力を抜いて観れる作品です)

兎も角。週末の予定の塩梅もありましたので。初回初日。立ち見で参戦してまいりました。

主人公のルイ。人気劇作家として成功。忙しい日々。そんな彼が12年振りの帰郷。
かつて家を出て以来。何かと家族へのプレゼントや便りは欠かさなかったけれど、決して戻る事の無かった田舎の実家。

彼の目的はひとつ。「俺。もうすぐ死ぬんだ」それを家族に告げるため。


「ああ。当方は前作『Mommy/マミー』の方が好きやなあ」

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自閉症の息子を持つシングルマザー。その母子家庭と傷ついた隣人とのギリギリな日々。あれは確かに傑作。ついつい比較してしまう当方。

「今回の作品。正直、観ている間のストレス。フラストレーションが半端ない。イライラして「あんたらなあ!」と言ってしまいたくなる」

ですが。鑑賞後。じわじわと当方の心のやらかい場所を締め付けてくる。そんな作品。

母親。兄。歳の離れた妹。恐らく田舎ではルイは生きていけなかった。実家を離れ。都会で大成していくルイ。家族への定期的な絵葉書。プレゼント。でもそれはあくまでも儀式的なモノで、所謂「生存確認」
残された家族は一つの家に今も一緒に住んでいて。兄は結婚、子供を儲け。幼かった妹はすっかり大人になっている。

互いに分かっている。「知らせが無いのは元気な証拠」

だからこそ。家族にとって目的をはっきりと言わずに突然現れるルイの不気味さ。だってこれまで実家に遊びになんて来なかった。ルイは何かを知らせにくる。その内容に対する恐怖。

「ルイのもたらす知らせは良いものではない」

既に仕事は安定している。ルイのセクシャル的に子供が増えるといった内容ではない。となると…凶兆としか思えない。…聞きたくない。

「言うのが怖い。切り出せない」と「聞くのが怖い。聞きたくない」兎に角全編に渡ってその攻防。

「いくら何でも臆病すぎる」「それは…ルイが本当の終末期に至った時に後悔しないのか?」「時間を大切にしなさいよ」観ている当方の、眉をひそめながら、溜息をつきながらの声。でも…仕方ない。こういう家族だから。結局はとても似た者同士の家族だから。

久しぶりに会う家族。ルイが好きなものばかりを、腕を振るって作る食事。楽しい会話がしたい。会っていなかった間に起きた出来事を話したい。でも。
「そうやって会話する中で。少しでもタイミングを見つけられたら、ルイはとんでもないシビアな話を始めてしまう」その恐怖。もう何の話題をすればいいのか分からない。ピリピリする家族。そして一体どのタイミングで話を切り出すべきかを見失うルイ。

母親が。妹が。兄の妻が。これからの家族の在り方を。己の生き方を。そして二人の時にズバリと。女たちは角度を変えながらルイに話しかけ、彼の出方をうかがっている。そうして受け止めようとする。なのに。

「もう兄貴消えてくれよ!」

観ている側のフラストレーションのほぼ大半。兄の存在。皆の会話に一々絡んで。すぐに怒ってぶち壊す。本当に観ていてイライラする存在。ですが。

「なんで俺が悪者なんだよ!」

そうなんよな…この家族の皆に共通する「怖い」という感情。それを正直に。
表現の仕方が余りにも不器用すぎて不愉快ですらあったけれど。確かに代表して訴えていた。

「ねえ。覚えてる?日曜日にドライブに行ったこと」

食事の支度を皆でしている台所で。ラジオから流れた音楽を聴いて、母親が語りだす家族の昔の記憶。その音楽に合わせて。最近習っているエアロビ(風)ダンスを踊り出す母親。始めは嫌がっていたけれど、無理やり一緒に踊っているうちに笑いだす妹。皆が笑って。ルイも笑って。そしてふっとその音楽が大きくなって。切り替わる画面。

幼い時。日曜日に家族でドライブに行った。バスケットを持って。レジャーシートを敷いて。兄とはしゃいだ。間違いなく幸せだった。そんな日曜日。

「ちくしょう!そういうセンスが憎たらしいんだよ!ドラン」唐突に当方の心がなぎ倒された瞬間。

一緒に居た時間は短くて。だから良かった記憶で一杯にしたい。幸せで。きらきらした記憶だけで良い。ルイとの時間は。

柔らかい記憶の次が悲しいものになるなんて。いずれはそうなるのだろうけれど。あくまでもそれは「いずれ」であって。今すぐには受け入れたくない。

そして、やっとこういう事態になって初めて家族に目を向けたルイに対して。

あっさり「家族」からの退場を認めたくない。

家族の各々が抱える問題。それを今初めて皆がぶつけあえる時が来たのに。そこに参加もせず、一方的にお別れなんて卑怯すぎる。
勝手に。センチメンタル全開で自分の言いたい事だけを言うなんて。その前に聞くべき話は沢山あるはずやろう。本当はそう言いたい。でも。

「本当のお別れ」を告げに来ている家族に。誰が面と向かってそんな言い方が出来るというのか。

「きちんと言葉にするべきなんやけれどな…」もう何度目かの溜息をつく当方。不器用すぎる。

家族だから。却ってぶつけられない事。それらが少しづつで良いから話し合えたら。時間は限られているけれども。

後悔しないように。穏やかな終末を迎えられますようにと。祈るばかりです。