ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ショコラ 君がいて、僕がいる」

「ショコラ 君がいて、僕がいる」観ました。

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20世紀初頭。フランスで初めて誕生した白人と黒人の芸人コンビ。
しがないどさ回りサーカス団で知り合った二人。白人のフィティットと黒人のショコラ。
コンビを組んで、人気が出て。パリの名門サーカス団に引き抜かれ。街でも二人の芸は大当たり。なのに…爆発的な人気を得る中で、徐々に暗転していく二人の関係。
「所詮白人に蹴られて笑いを取っている。白人に媚びた芸だ」「お前は黒人だ」人種差別が根強い時代。
心無い言葉や、同じ黒人からの言葉に揺れ。酒やギャンブルに落ちていくショコラ…。

ショコラをオマール・シー。そしてフィティットをチャップリンの孫、ジェームズ・ティエレが演じた。


「何故元々のタイトル『ショコラ』だけでいかない?!「君たちがいて、僕がいる」みたいな!…チャーリー浜かよ!」
日本語タイトルにありがちな「サブタイトル問題」生粋の吉本文化に慣らされた当方の、必要不可避なツッコミ案件。まあそれは置いておいて。

「何かこの二人。横山やすし・西川きよしを連想させるな…」やっぱり置いておけない当方。

ピエロとしての腕は一流。その他ジャグリング。パントマイム。何でも器用にこなせるけれど「君の芸は古い」とサーカス団から切られそうなフィティット。そんな彼が見初めた「人喰い土人」としてただただ観客を怖がれせていたショコラ。その無限の可能性を信じ、声を掛けた。

「俺たち二人で組んだら面白くなるぜ」

初めは難色を示していたサーカスの団長。半ば無理やり押し切ってコンビで出てみたら…それが大当たり。連日サーカスに二人を見たいと長打の列。でも。

「俺たちはもっと面白くなれる。高見を目指せる」

お笑いに対して、野心と向上心を持つフィティット。何となく付いていくショコラ。そして小さなサーカス団から、パリの有名サーカス団へと活動のステージは上がって。


「何ていうかなあ…。もうこれ仕方ない流れやったんとちゃうかなあ…」

話をぐっと最後まで飛ばして…少しネタバレしてしまいますが。

最後。「俺がどうにかしてあげられたら。二人はもっと高見に行けたのに…」みたいな事を言ってフィティットが泣くシーンがあるんですがね。

「いやいやいや。貴方はベストを尽くしたと思いますよ。誰のせいでもない」背後から、そっとフィティットの肩に手を置きたい当方。


「黒人なんて猿以下だ」「お前たちに人権などない」「醜い」「低俗だという自覚を持て」「怖い」「黒人に知性などない」
最悪な人種差別がしっかりと存在する時代。例え彼らが有名になろうとも、そういう声は何処からか聞こえてくる。元々奴隷出身であったという心の痛む記憶。それ自体は本当に眉をしかめるばかりの当方。ですが。

そこで「なにくそ。俺は芸で皆を見返してやる」というストイックさには向かわないショコラ。

有名になって、お金を手に入れて。調子に乗ってしまうショコラ。高い服を着て。車に乗って。女も来るもの拒まず。そして心の苦しみも、イライラも酒とギャンブルに当ててしまう。そしていつに間にか借金まみれ。(そういえば、売れないサーカス団時代からカードゲームとかしていました)

「あかん。そういう所がやっさんを思わせるんやで」天性のお笑いの才能とセンスを持っているのに。「小さなことからコツコツと」が出来ないショコラ。

対する生真面目なフィティット。技術面は文句なし。でも揺れ動くショコラの気持ちにはじっくり向き合えない。「それよりもっと練習しようぜ」「もっと」「もっと」俺たちもっとやれるぜ。なのになんだお前は。昨日は何処に行っていたんだ。今日は何をしていたんだ。チャラチャラと浮ついている暇があったら、真面目に芸に向き合えよと。

「やかましいおかん」正に。これは中学生男子位の視点から見た「やかましいおかん」
そして案の定反抗する息子。
そんな感じになっていく二人。

二人の間がぎすぎすしていく中。マリーという看護師の女性と出会うショコラ。そして「調子乗ってんじゃねえよ!」と数日投獄(本当にねえ。あれ、何の罪なんですか)された時に知り合った、黒人の思想家。

「本当に純粋すぎるんよなあ…」確かに黒人であるが故に傷つけられた事は沢山あった。でも。彼らからの受け売りの思想に則って得た仕事に。己の身の丈が合わない。そして努力出来ない。結局位一夜漬けの付け焼刃で。ズタズタに終わったショコラ。

華やかなステージから姿を消したショコラ。そしてひっそりと暮らすフィティット。

その二人が再会した夜。フィティットの流した涙。
「俺がどうにかしてあげれていたら…」

そっとフィティットの肩に手を置きながら。 

慰めるなって 背中が黙って言うから 当方も声には出さないで 話しかけてる。(唐突にスマップの名曲:君は君だよ)

時代が悪かった。誰が悪かった。どうしたら良かった。ああすれば。こうすれば。そんなの、もう此処ではいいじゃないかと。

君は君だよ だから誰かの望むように 生きなくていいよ
君は君だよ だから僕には かけがえのない一人なんだよ
君は君だよ 他の誰にも かわりなんてできやしないんだから

多分。時間を巻き戻して、また出会った時からやり直しても二人は同じ流れになる。ショコラは調子に乗って、二人はすれ違って…ショコラは自滅する。もうこれは仕方が無い流れ。時代も誰も悪くない。今この場で誰をどう責めても。それは意味がない。だからそんな事より。

「二人で芸をやっている時。楽しかったな」

苦しくて。喧嘩もして。でも観客の前で芸をして、皆が思いっきり笑った時。最高だった。それでいいじゃないかと。
それでいいじゃないかと。

まあ。時間は本当に心の傷を癒しますから。苦い記憶は薄れていって。楽しかった事がフィティットの心にふんわりと残るでしょう。…そうあって欲しい。そして。

きっと今はあの世で。二人は穏やかに過ごしているんだろうと。そう思う当方。