ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「幸せなひとりぼっち」

「幸せなひとりぼっち」観ました。


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スウェーデン映画。「スウェーデン本国では、2015年のクリスマスに公開されるやいなや『スターウォーズ/フォースの覚醒』の動員を越えた」「国民的映画」「圧倒的支持率」何だか大変な鳴り物を抱えて。しかも日本で公開された昨年末から。地味に当方の耳に届く好評の波。治まらず。

これは観に行かなければと。
2017年初めの映画部活動作品として、鑑賞しに行きました。

結果「これは幸先の良いスタートを切れました」ホクホク顔で映画館を後にした当方。


主人公の中年…というか老年期に差し掛かったオーヴェ。集合住宅にて独居生活。
冒頭。ホームセンターで切り花の値段に納得できないとごねるオーヴェ。売り場の若い店員に散々文句を言った挙句「責任者を呼べ」(でもねえ。あれ、どう考えてもオーヴェの言い分の方が駄目ですよ)
全く好きになれない老害という印象を植え付けるのにはこれ以上無い取っ掛かり。

でも。そもそも孤独な男やもめが何で花なんて買っているのかというと…亡き妻の墓に供えるため。

気難しくて頑固。付き合いにくい。そう見えるオーヴェ。でも妻の事はとても愛していた。

毎朝の集合住宅内の自主パトロール。かつて自治会長も務めたオーヴェ。敷地内のゴミ、施錠。車は然るべき所に停めているか。標識、看板の点検など。特に誰に頼まれている訳でも無いのに、未だに日課として続けるオーヴェ。そして違反者には激しい怒号。まさに雷親父。

愛する妻を失って。抜け殻になりながらも己の規律に沿って過ごしていたオーヴェ。しかし、43年も務めた鉄道局からあっけなく解雇されてしまう。

「もう生きていく気力が無い。愛する妻の元に旅立とう…。」

きちんとしたスーツに身を包み。いざ自殺しようとしたオーヴェ。


勿論、そのまま自殺してしまう訳も無く。

オーヴェが自殺をしようとする、まさにその時。それを阻むアクシデント。
賑やかな隣人、お騒がせの入居。

そこからはもう、オーヴェの自殺未遂=過去のオーヴェ半生エピソードの追憶=邪魔。その構図の繰り返しで基本的には進んでいくんですが。

「初めは嫌な年寄りという印象でしかなかったオーヴェの。その半生。別れの繰り返し。幼くして母親を亡くし。育ててくれた父親からは「男ってこういうものさ」という全てを学んだ。無口で。でも熱くて。誠実で。正義感に溢れていて。幸せな時代。

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でも。父親も失って。

そして出会った、後に妻となる「ソーニャ」

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「こりゃあ好きになっちゃうよ」

笑顔が素敵。大きな口を開けて笑うソーニャ。表情もくるくる変わって。明るくて。情熱的。
不器用で。どうしていいのかぎこちないオーヴェを。決して馬鹿にしたり軽んじたりしない。

「と言うか。初めて会ったあの列車で。明らかにお互いに運命を感じていた」

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出会って。また再会して。付き合って。結婚して…そして二人で暮らし始めた。この家で。今は一人。


元々容易く他人に心を開く性質では無い。自分のやっている事を説明なんてしない。だから「悪い人では無いんやけど…とっつきにくい」と思われがちなキャラクター。でも。オーヴェの半生を知っていくにつれて、オーヴェの取っている行動が父親譲りの誠実さであり、正義感であると理解出来てくる。

そして、グイグイオーヴェのテリトリーに立ち入ってくる隣人のパルヴァネ。

ペルシャからの移民で。子供が二人居て、今もお腹に新しい命を宿している彼女は随分と逞しくて。


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オーヴェとパルヴァネ。全然すんなりといかないながらも徐々に生まれていく信頼関係。


そして肩の力をふっと抜いてみたら…見えてくるのは暖かい世界。
それはオーヴェがこれまで気築き上げてきた世界。


このイメージがフィットするのかは分からないけれども。当方がこの作品を観て思ったのは「木の中の仏像」
冒頭。ただの丸太でしかなかったそれが。丁寧に。時には大胆に削っていったら…最終的に一体の美しい仏像が現れる。


街で。近所で。ただの雷親父だと億劫に感じる年寄り。でも。一体今この現代で。他人に間違っている事は間違っているとはっきり叱れる人物などどれくらいいるものか。
鬱陶しいようで。誰も頼んでいないけれど。でも、この地域にとって何らかの貢献をしている人物が。そんなの、もう滅多にいない。

オーヴェは直ぐに怒鳴りちらし。面倒くさい。でも結局誰彼ともなくオーヴェに頼ってしまう。始めはすげなく断られるけれど…結局オーヴェはきちんと力を貸してくれるから。しかも相当なクオリティーで。

またオーヴェのDIY精神と手先の器用さ。オーヴェに掛かれば壁一面の本棚、階段のスロープ、リフォーム、電気機器の取り付けや修理、ベビーベット作成等。何でも出来ますからね。

そして、意外とお茶目な一面もある。

国産車サーブをこよなく愛し。
集合住宅で折角できた気の合う友達なのに「あいつはボルボに乗ってるから」と張り合い。パルヴァネに運転を教える時も「ボルボなんてぶつけたっていいんだ」とのたまい。本気半分、冗談半分のサーブ愛。

直ぐに怒鳴るし、言葉数が少ないから一見キツイ事を言っているようにも聞こえるけれど…オーヴェには意外と凝り固まった偏見は無い。
「あれか?ゲイってやつか?」ある若者に確かめるけれど。そこからゲイ否定等の言葉は続かない。移民であるバルヴァネにも「大変な事態を沢山乗り越えてきたんだろう!」と相手の境遇と背景を尊重し。かつて張り合った…闘病中の友人夫婦に何かが出来ないか奔走する。

「そういうの。ちゃんと相手は見ているんだよな」

勿論怖がって避ける人も居た。でも。たとえ怒鳴られても、疎まれても、オーヴェに声を掛けて、付いてくる人も居た。

後半。もう自殺なんて考えもしなかったオーヴェの。まさに「幸せなひとりぼっち」な生活。泣けて仕方無い当方。
そして教会のシーン。タオルを顔に押し付けて泣く当方。



毎日が。同じような日々の繰り返し。いつまで経っても楽にならない仕事と人間関係。エトセトラ。エトセトラ。
良い事ばかりじゃ無い。寧ろ嫌な気持ちになる事の方が印象に残ってしまって。余裕が無くなると心がささくれて。
頑張っても報われない。誰が見ている訳じゃ無いし。ああ嫌だ。知らん顔したい。もう投げ出したい。そう思う事は沢山ある。

聖人じゃないし。ベストな選択が常に出来る訳じゃ無い。後悔していることだってあるけれど。

「こうやって、真面目に。己に嘘が無いように。コツコツ毎日を積み重ねていく。その姿の偉大さよ」

万人に見て貰わなくて結構。でも、時々誰かが「頑張っているな」「やってるな」と思ってくれたらすこぶる嬉しい。

そして当方自身が、その時立っている場所からふと振りかえって…またニヤッと笑って前に進めたら。そういう日々を重ねなければと。

オーヴェからそう学ぶ当方。

「素晴らしい映画部活動初めでした」

では。今年も始めたいと思います。

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