映画部活動報告「フィッシュマンの涙」
「フィッシュマンの涙」観ました。
観た事の無い韓国映画。
とある製薬会社の治験に参加した、しがないフリーター。
どんな化学反応が起きたのか、上半身が魚になってしまった彼。「魚人間」
「映画だかドラマかのエキストラ仲間でちょっとヤッてしまった彼女」に居場所が無いからと押しかけた魚人間。
すぐさま金になると売り飛ばした彼女の手によって、一気に世間の目にされされる羽目になり。
驚かれ。もてはやされ。そして一気に転落し、人々の記憶から追いやられた魚人間。ーそれから5年。
「社会の不正を正す記者になりたい」と当時熱く語っていた、魚人間を追っていた元新人記者を主軸に。
当時追っていた魚人間について振り返り。そして今。
一体今。彼はどうしているのか?
韓国映画…歯が浮く様なラブモノか、目を覆いたくなる様なバイオレンスモノか。当方は勿論後者を贔屓としている輩なんですが。
「この韓国映画は観た事が無い。このビジュアルで。シュールではあるけれど、完全にコメディには持っていかない。と言うか寧ろ社会派」
まさかの。まさかの社会派風刺青春映画でした。
韓国の社会事情…全く存じ上げませんが。
「地方大学出身である事が、そんなにネックになるのか」「公務員になる事はステータスなのか」エトセトラ。エトセトラ。
「治験」というものが結構ブラックで高収入のバイトである事は、当方も昔読んだ松尾スズキ氏のエッセイで知ってはいました。
「一体何を目的とした検査なのかは知らない」「ただただ暇だった」
でも。その「一体何を目的としたのかが不明」なのが最も怖い点で。
問題発覚後。製薬会社の研究者トップが明かした「この薬の実態」
結局、凡人にはピンと来ないミラクルフードの一貫。でもそれが何故か「魚人間」を生み出してしまう。
(ちなみに、そのミラクルフードのビジュアルの最低さ。あれは「カレー味のうんこ」案件の最低ビジュアル。あれを口にする時、当方は己の尊厳を失いますよ。どんなに長寿だの健康を訴えられても、越えられないラインの向こう側でした…)
「人間をこんな姿にしてしまうなんて!」と製薬会社に立ち向かう記者の主人公。魚人間の彼女。魚人間の父親。人権保護を専門とする弁護士。
対する製薬会社。世間。
と言っても。魚人間側のキャラクター陣も、元々は彼の味方では無い。
TV会社に正式に雇用されたいと足掻く非正規記者。結局は魚人間を愛していないがめつい女。同じく金にならないかと窺っている父親。信用ならない弁護士。
そして、魚人間。
当方がこの作品で印象的なのは、魚人間が「人間に戻せ」とは言っていない所でした。
(人間に戻せる云々の話は、確かに最終出てはいましたが)
魚人間になってしまった事については、寧ろ受け止めていて。それに対して本人はどうこう言ってない。
彼女だの父親だの、メディアだのは「どうしてくれるんだ」とおざなりな怒りを露わにするけれども。
「自分はとにかく平凡でいたかったんだ」
騒ぐ周りに対して。記者にそう語った魚人間。
「彼は分かっていたんよな。この姿は最終形態では無いという事。このまま自分が魚になる事を…」
最早空中では生きられない。水の中の方が、体が楽。もう自分はこの世界には居られない。
組織に対して。世間に対して。どう振舞えば、低スペックの自分を上手く売り出せるのか。そんな色気も持ちながら。魚人間に乗っかった「味方」の人間たち。周りがそうやって、ある意味魚人間を利用している事を。知っていた魚人間。
「そんなの…どんな気持ちがするか…辛すぎる」
ただただ平凡な人生を望んでいた。社会に出て。恋をして。家族を作って。働いて。そして歳老いて…死ぬ。そういうありきたりな幸せを。(ですがね。ロンリー貴族の当方は叫びますがね!これって、全然簡単には手に入らないんですよ‼)
なのに。ちょっとしたバイトが。取返しの付かない事態になって。
センセーショナルな変化。そしてそれに乗っかって勝手な自己主張をする、今まで知らなかった人たち。
彼らは魚人間になった自分にしか興味は無い。
元々世間に埋もれた存在でありたかった。でも。思いがけず「出る杭」になった事で、見たくなかったものが沢山見えて。打たれて…苦しくて。
生理的にも苦しくて。もう此処には居たくない。
昨日の敵は今日の味方。皮肉な事に、魚人間に最終的に出来た、分かり合えるささやかな仲間は製薬会社の研究者。
ところで。「巨大海洋生物恐怖症」の当方ですが。この作品は興味を持って観に行きましたし、悪寒に襲われる事無く観る事が出来ました。
「まあ…魚人間のビジュアルはどう見ても被り物程度やし。人間を襲う訳でも無いし」
リアルに魚人間を見たらですか?勿論失神、発狂レベルですし「お母さん。怖いもの見ちゃったから一緒に寝て」と幼児体の当方が枕片手にべそべそ泣くと思いますが。まあスクリーンで観る分には、同じ疾患の方も(会った事ありませんけれど)比較的穏やかに観れると思います。
魚人間騒ぎが終結して5年。彼に関わっていた人間は、概ね成功したポジションに居て。でも。
「一体あれは何だったのか」
確かに組織に、世間に認めて貰いたかった。でも。魚人間に関わった事は。その原動力は。確かに色気はあった。でも。あの頃持っていた信念。そこに嘘は無かった。
「ちょっと追憶が長いのかな」と思っていた本編の、ガラッと新しいページが開かれる瞬間。その間違いのなさに、深く頷く当方。
「これは観たことが無い韓国映画」
ラブで無く。バイオレンスでも無く。こんなにふざけたビジュアルでありながら、しっかりとした社会派風刺青春映画。
「新しい韓国映画を観た」しかも92分という、コンパクトさで。有難い。
最後に。当方は初日鑑賞でしたので、ノベルティーにチョコレートを貰いました。とろっとして、大変美味しかったです。