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ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「怒り」

「怒り」観ました。


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吉田修一の同名小説。李相日監督作品。

東京八王子。夏。とある一軒家で起きた、残忍な夫婦殺人事件。修羅場と化した殺人現場で残された、冷蔵庫の扉に血で記された「怒」という文字。
犯人像は浮かんでいるのに、一年経った今も未解決のまま。警察は、メディアを通じてしきりに日本全国に情報公開で呼びかけ。
そんな折。千葉、東京、沖縄に現れた「犯人を思わせる」3人の男達。得体の知れない男達。
彼らの中に犯人が居るのか?そして彼らは一体何者なのか?

そんなミステリーを一応の軸として。でもメインのテーマは「信じるということ」であったと思う当方。

松山ケンイチ綾野剛森山未來を3人の男に据えて。

「この中で誰が犯人なのか…。結構終盤まで引っ張っていたし、各々の俳優さんを絡めてミスリードしようとしていた…けれど。けれども。」

冒頭。夏の暑い日行われた犯行。その映像を見て。

「あ。犯人。あいつやわ。」

確信し。そして正直それがそのままの結果であった当方。犯人の理論?筋?そんなもの、もう破たんしてちぐはぐでしたし、そこからの考察でも、はたまた当方の第六感でもありません。

「単純に犯人の体つき。」

3人の中で体つきが圧倒的に違う。これは近年の当該俳優の活動を時々見ていた人なら絶対に分かる個体差。ただそれだけ。

この作品の感想を述べるに当たって、ネタバレをしない事は最早不可避。一応「あいつやわ」はしないようにしたいと思いますが…。

一応3パートの感想をざっと。

『東京。妻夫木聡綾野剛のゲイカップル編』

何なんですかね。これは…腐女子の皆さんのお楽しみストーリーですか?

と言いたくなるくらいの。兎に角綾野剛がかわいこちゃん。
9キロの減量…少年みたいな線の細さ。そこに河村隆一以来のざっくりセーターを羽織って。

「そして妻夫木聡よ。あんた一体何の仕事をしているんだ。」
その若さで。バブリーなパーティーに入りびたり。熱効率の悪そうなお洒落マンションに住んで。高そうな物に身を包んで。

「渇き」近年稀に見る観客を置き去りにした怪作に於いて、唯一輝いていた「軽薄な妻夫木聡」その再来かと。

「やっぱり、妻夫木聡はこういう中身の無い人間の役が似合うわ~。」(こう見えても褒めていますよ)

少年みたいな綾野剛の足をこじ開けて。あくまでも二人の関係性は妻夫木聡がリード。俺に任せておけ。俺はゲイであることも隠さない。でっかい人間なんだと。

「大切なものが多すぎるんだよ。」

母親にも。愛する綾野剛にもそう言われ。結局はそんな口だけの虚勢は見抜かれていて。ただ彼は自分を守りたいだけの小心者で。

覆水盆に返らず。やっと本当にたった一つだけ大切にしたいものを見つけても。もうそれは二度と手に入らなくて。

「ただな…あの設定なら、あの丘を上るシーンとか…もっと息切れするもんやと思うけれど…(小声)」

そして最後の高畑充希のあの表情は一体何だったんだと。不思議な演技がいやに気になりましたが。


『千葉。宮崎あおい松山ケンイチの漁港編』

宮崎あおい。基本的に守りに入り過ぎ。だから近年は同じ顔で何でもやる課の二階堂ふみ(巨乳)に持っていかれているんだよとふがいない思いをしていた当方でしたが。

「何度でも言う。宮崎あおいは禍々しい。」

年端も行かない頃の宮崎あおいの。その「害虫」「好きだ」「初恋」等の。あの宮崎あおいを知っているから。(言われたくないでしょうが「あの、夏の日 とんでろじいちゃん」も知ってるぜ)あの一見イノセントに見せた、とんでもない悪魔を。

おやすみプンプン」を実写化したとしたら、愛子ちゃんは宮崎あおいだとずっと思っていた。そんな「笑っているけれどなんか怖い」宮崎あおいの本領発揮。

田舎の小さな漁村で。村の皆からも笑われて後ろ指さされる。そんなイタイ女の子。
都会に出て風俗で落ちていた所を父親に連れ戻され。勿論村の皆もそれは承知で。

そんな彼女が、父親の職場で出会う「正体不明の男」松山ケンイチ

寡黙で。あまり周りとは馴染もうとしない。自分の事を話さない。そんな松山ケンイチに惹かれていく宮崎あおい。(まあ、そもそもこの村に若い男もあんまり居ないんだろうな。しかも彼女の事をあまり知らない男なんて)

ささやかだけれど。二人で生きていこうと。幸せになろうと。

でも。そこに忍び寄る「全国指名手配犯に似ている」という不安。

余りにも自分を語らない松山ケンイチに。そして語ってくれた内容のうさん臭さに。

「自分が幸せになんてなれるはずがない。だってどれだけの迷惑を掛けて。親まで村の皆に笑われる様な事を繰り返して。頭だって悪いし。幸せな生活なんて。それを手に入れていいなんて。何か裏があるに違いない。」疑心暗鬼。

思いっきり話がズレますがね。急に思い出したんで。そういえば当方の小学生の時のクラスメイトの男子で「俺の父ちゃん、グリコ森永事件の犯人に似てるって警察に通報された事があるらしいわ~」と言っていた子が居ました。小学生は大爆笑でしたけれど。あれ。「俺の父ちゃん」どんな気分がしたでしょうかね。

佳境に大泣きする宮崎あおい。その姿を見て「抱きしめて!渡辺謙!」全当方が涙。


『沖縄。広瀬すず森山未來の離島編』

当方は、このパートが一番好き…というか胸がぐしゃぐしゃになりました。

高校生という危なっかしい年代と。大人なんだけれど、自由に見えて。近づき易くて。何でも話せるお兄ちゃんみたいに見える、そういう相手。

直ぐに男について行って振り回されて。そのたびに転々と引っ越して。だから今回は沖縄に来た。そんな母親を「お母さんは好きだけれど。お母さんのそういう所は好きじゃない」そう感じている事がしんどくて。

自分に好意を寄せてくれている同級生の男子。悪くないけれど。でも自由な森山未來が眩しくて。

この、広瀬すずの同級生役「佐久本宝」

「いかにもな沖縄顔の男子。垢ぬけなくて。でもその朴訥とした人柄が。しっかりとその人物に見えてくる。これは凄い役者が出てきた。」

このパートは中盤から本当に重苦しい展開を見せていくのですが。その直前から、何て危ない場所に行くのかとはらはらし。案の定な流れに胸にどす黒いものが流れ始め。ひたすらやりきれなくて。

広瀬すずの表情と。あの同級生の「ちゃんと約束を守って。そうして大好きな女の子を守ろうとした。」その姿に。今思い出しても涙が出る当方。


3者の男達に関して。犯人であったものは別ですが、その他の人物達に当方が思う事。

「(ミステリーを成立する為とはいえ)自分が大切に思う相手には多少は気持ちを言わんといかんよ」社会人のルール「報連相

自分の気持ちや考え。バックボーンを。誰にどこまで打ち明けるのかは個人の勝手。そのスタンスは当方も全面的に同意しますが。

「にしても現実に考えたら『殺人犯かもしれない』って思わせるって、よっぽどですよ。」

まあ…確かに人を信じるって難しいですけれども。

だから。ある者は自分は疑ってさえいた相手が、自分に大きな信頼を寄せてくれていた事に衝撃を受け。信じてくれていたのに疑った事で相手を失い。ちゃんと愛されていたのに。どうしても自信が持てなかった。疑うというのは、自分に自信が無いから。
彼らに共通するのは「どうして信じてやれなかったんだ」という自分への怒り。

そして、全く真逆の「どうして俺を信じられるんだ」という怒り。
俺は犯罪者だぞと。人を殺し。姿を変えてのうのうと生きている。そもそも犯罪を犯す前から俺は社会とは馴染めていなかった。どうして?どうして上っ面の俺にあっさりと懐柔される?一体何を持って人は人を信じている?

犯人こそが。犯人こそが誰も、どんな事も信じる事が出来なくて。勝手に殻に閉じ籠って。そのフラストレーションを爆発させて暴走して。

「おそらくこいつは一生誰とも分かり合えない。」

だから。この結果は寧ろこの犯人にとっては優しさですらあると。

怒りによって傷つけられた人々が。

「それでも貴方には誰かが寄り添うのだから。だから。幸せになって欲しい。」

街なかで。人々が行く中で大泣きする妻夫木聡が。電車に乗る宮崎あおいが。海に向かって叫ぶ広瀬すずが。

彼らにいつか柔らかい日々が訪れますようにと祈らずに居れない。そんな作品でした。