ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ティエリー・トグルドーの憂鬱」

「ティエリー・トグルドーの憂鬱」観ました。


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フランス発の社会派映画。

51歳の主人公。エンジニアとして働いていたのに、集団解雇。かつての会社と戦うつもりであったけれど。

カスミを食べて生きている訳では無い。妻と、障害を持つ息子との三人暮らし。家のローンだって終わっていない。職安に通い。あんまり意味のない資格を取らされたと怒り。模擬面接では皆からボロクソに言われ。実際の面接でも散々ぶった切られ。

望んでいたエンジニアの職とは全く違う仕事に就職。それはスーパーの警備員。
仕事の内容の殆どは万引きGメン。「おかしな動きをする奴はまず疑え」

しかし、彼の疑う相手は「客」だけでは無い。スーパーで働く「同僚達」もその対象であった。


「これは…確かに憂鬱だな。」

中高年のリストラ。再就職の厳しさ。不況。養わないといけない家族。決して楽しくはない仕事。

「万引きGメン…。」

盗んだバイクで走り出す過去などもってのほか。
未就学児童の頃、たまたま万引きする人を見てしまい、ショックのあまり胸が重苦しいと親にすがりついて泣いた当方。電気屋から何かのカタログを持ち帰り。そのカタログがまあまあの分厚さであった事から「もしかして、売り物の本を持ってきてしまったのではないか」と後から思い始め。動揺の余りカタログを隠蔽。今度は一人で泣いて過ごした当方。

「貴方の心」も盗む事も盗まれる事も無く。まあ、そんなカリオストロの城はいいとして。兎も角、子供の時のピュアさは無いにしても今でも「盗む」「不正」にはどんよりとした気持ちに飲み込まれる当方。

でも、そんな事は言ってられない。彼には大切な、守らなければいけない家族が居る。

誰からも好かれない仕事。でも、誰かがやらなければいけない仕事。そういう仕事だってある。

しかし…ねえ。

万引きGメンからは、少し視点を変えますがね。

この作品全体を通して感じるやるせなさ。主人公の静かな憤りと、でも立ち上がってまでは抗わないリアルさ。腹が立つ。だからブチブチ文句を言ったり、表情を曇らせたり、時には話を切り上げたりするけれど。でもそれは決して激しいリアクションでは無い。

「確かに。確かに現実世界ではそんな都合の良い展開なんて無い。」

誰かが自分を見ていてくれて。「知ってるよ。いつも頑張っているじゃないか」と肩を叩いてくれて。そんな理解者が窮地で手を差し伸べてくれて。
そんな都合の良い神は現実にはまず存在しない。

理不尽な状況。嵌っていくドツボ。落ちていく。でも、穴の底からただ空を見ていても、誰も何もしてくれない。

「もがいて。不細工にじたばたしようが。それが他人からどう見えようが。結局は自分でどうにかするしかない。」

溜息しかない主人公の毎日の中で、唯一の喜びである「家族の存在」

ニコニコして。仲良く手をつないでいたら幸せ。そんなおとぎの世界では無い。この家族にだって、苦しい事情は色々ある。でも。

夫婦でダンス教室に通って。(フージが居ないか目で探しそうな教室でした)そのダンスを家族皆で踊る。そんなささやかな幸せ。

諦め切ったように見える主人公が。それでもどこか諦めていないと思わせる主人公が。何故かその先を見たくて。

「だから。一見終始単調でネガティブなこの作品に、しっかりと観客が付いて来れるんだな。」そう思った当方。


さて。万引きGメンの話に戻りますが。

客側の不正。若者の腹立たしい万引き犯。憎たらしい言い訳。そして年寄りの悲しすぎる万引き犯。

「駄目だ…当方は本当にこういうんは駄目なんだよ。」もうすっかりいい年なのに。胸が重苦しくて。押しつぶされそうになる当方。

そして。従業員の不正。

「ああ。そうか。そういう事があるのか…。」

ちょっとイケナイ店員さん多くないか?とも思いますが。

「覆水盆に返らず」

どんなにベテランでも。普段は真面目な勤務態度であっても。結局、たった一回の不正が露呈したら。一気に崩壊する信頼関係。

非常に苦々しい展開を見せていましたが。…ただ、当方は「どんな事情があろうがやったらあかんことはやったらあかん。」そしてその行為自体も「当てつけかましい」としか思えなくて。

もしかしたらこの一件があったから、こういう店員が続いていたのかもしれませんが。何かしらの上層部へのあてつけとして。(あくまでも推測です)

家族の為。生きていく為。そうやって見つけた仕事で。納得のいかない事に対して、どう折り合いをつけるのか。

最早仕事だけでは無く。今のこの状況。その全てに対して。ともすれば黙って流されて、心を殺す事も出来るかもしれない。でも…でもと思うのならば。

一体自分の信念をどこに置くのか。

主人公はどういう答えを出したのか。そして当方ならば?


観る人によって、考え方も答えも全く異なるであろう。そんな作品でした。