ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「グッバイ、サマー」

「グッバイ、サマー」観ました。


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「14歳の夏。僕たちは、一度きりの旅に出た。」

そんな、甘酸っぱい気持ちになる事必須の夏休み映画。ミシェル・ゴンドリー監督作品。

当方も大好きですよ。
エターナル・サンシャイン」冬の泣きたい夜。酒を飲みながら観る作品。主人公達カップルは勿論、事務員のエピソードで毎度泣く当方。
「恋愛睡眠のススメ」一緒に飲んでいて。自らが立てた、訳の分からないアイデンティティーにいい歳してがんじがらめな中年酒飲みに「70歳になったら結婚しよう」と、思わず想定外のプロポーズをしてしまいかけた(この話は本編とは一切関係ありません)切ないけれど、好きなフレーズ。

とにかく、当方のやらかい所を今でも締め付ける過去作品ですが。

14歳のダニエル。小柄で、見た目も女子っぽい主人公。男子の友達は居らず。片想いのローラーにも軽くあしらわれ。
ある日やって来た、転校生のテオ。
古道具屋の子供で、趣味の機械いじりのせいでいつもガソリン臭い。

クラスでも浮いていた二人。意気投合し。

ある日。テオの父親に命じられ、二人で行った廃材置き場。そこで拾ってきたエンジン。
そこから二人はがらくたをかき集め。そして完成した「動くログハウス」

夏休み。その「動くログハウス」に乗って。二人は旅に出た。

「甘酸っぱい。胸が締め付けられる」「これは…14歳の記憶」「懐かしい」

…そうですか?そうなんですか?
どういう所がですか?

当方の14歳。最早詳細は記憶にありませんがね。

「何も無い事にいらいらしていた」様な気がしますね。

14歳とか。17歳とか。いわゆる10台の中でも記号的な年齢で。

小説や漫画やテレビや映画も。同い年のアイドルやら。何かしらキラキラしているはずのその歳が。
その期待と、現実では自分には何も起こらないという解離。苛立ち。

「そりゃあそうやろう。だってあんた、何かアクションを起こしたのかね?」

年老いた当方は、ロッキンチェアーを揺らしながら、穏やかにそう語りますが。

「何もせずに、誰かが自分を見出だしてくれる。自分は人とは違う才能があって、それを見ている人が居る。根拠のない選民意識。結局は己も凡人だよと、認めるのが怖くて。自分からは動かない癖に。それを摩り替えて、周りのせいにする。周りに見る目が無いんだと。その傲慢さ。それが。」

「…若さなんだよ。」

誰だよ‼という老体当方。

ミシェル・ゴンドリー監督のいう「100%僕の記憶」というのが、どこまでを指すのかは分かりませんがね。

そういうエポックメイキングな年齢を、くすぶって過ごした人間はまあまあ居るはずで。
これは、単純に「14歳の少年の夏物語」と「大人の立場から見た、あの頃の自分への救い」という二つの立ち位置から見られる作品なのではないかと思いました。

周りの連中と自分は違う。自分の得意とする絵を認めてくれる大人も、一部には居る。
でも。片想いは上手くいかないし、結局はつまんない奴がクラスではモテたり上手くいってる。
母親は愛してくれているけれど過剰だし、面倒臭い。

そこに現れる「どこか、新しい場所に飛べそうな奴」「一緒に居たらわくわくする」

テオは回りの奴らとは全然違う。器用で大人びていて。破天荒で。

「そうかな?テオは大人びて見えるけれど。とても子供っぽくも見える。強くも弱くも見える。」

恋をすると、人は弱く見える。悩んでいる姿も、いつまでもうじうじするなとあしらわれる。

「歳を取るという事は、色んな経験を重ねる事だから。同じ事でも同じ様には悩まなくなってくるし、かわす力も付いてくる。…まあ、年齢に応じて悩みの内容は変わるけれど。」

おそらく、大人がこの作品に対して感じるノスタルジーは、主人公ダニエルの悶々とした悩める日々。

「好きな子がどうとか。周りがどうとか。悩め悩め。いつか何かしらの出口は見える。」

だって。こんな事に悩まなくなった今からしたら、そんなダニエルの姿こそが14歳のキラキラだから。

だから二人で驚異的なDIY精神でキャンピングカーを作る。そしてそれに乗って旅にでる。それはおまけ。淡い夢。映画ならではの優しい夢物語。
楽しい事ばかりじゃない。喧嘩もして、仲直りして。でもそれは夏休みの夢。夢は覚める。いつかは終わる。まさに夏。

でもそれはただの夢では無い。

「いつか好きじゃなくなったら、付き合えるよ。」

当方が一番印象に残ったテオの言葉。(のわりには詳細うろ覚え)

あの年頃は、女の子の方が大人びている。よくそう言われるけれど。

ひと夏を経て、完全にステージを上がっていったダニエルの目にはもうかつてのウダウダした悩みなんて見えていなくて。

年老いた当方には、ダニエルは14歳のキラキラを箱に詰めて蓋をして、棚にしまった様に見えましたが。

「14歳の女の子には、そうやってステップを上がったダニエルがキラキラして見えるんやろうな」

取り残された者にも箱にも目もくれず。

「本当に。本当にグッバイ、サマーだよ。」

さようなら。14歳のダニエル。