ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「角川映画祭 Wの悲劇」

角川映画Wの悲劇」観ました。

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1984年。澤井信一郎監督作品。薬師丸ひろ子主演。

夏樹静子の同名小説から名前を借りて。と言ってもその世界観では無い。
Wの悲劇」の舞台化と、それを上演する、とある(知名度の高い)劇団。
そこに在籍する、売れない劇団員に薬師丸ひろ子。看板の大女優に三田佳子。モテる中堅俳優に三田村邦彦。そしてまさかの演出家に蜷川幸雄

舞台の、ある重要な役が欲しくて頑張る薬師丸ひろ子。誰も居ないはずの朝の公園で一人練習する薬師丸ひろ子。そんな彼女の姿を見て、一目ぼれする世良正則

ある意味、何も知らなかった20歳の女の子が。背伸びをして手に入れた大人の世界。

そして揉まれていく。本当に大人になるという苦しみ。綺麗ごとばかりでは何も掴めなくて。

青春作品で、清純派ばかりを演じてきたアイドル薬師丸ひろ子が。
「役者 薬師丸ひろ子」へと変わったと言われた作品。


~なんて。当方は知ったことを言いますがね。

1984年なんて。確かにこの世に生は受けていましたが、全く映画を理解できる年齢にあらず。と言うよりも、世界中の数多の情報に揉まれてばぶばぶ言ってた時代でした。(そこまで幼くもありませんね。2足歩行はしていましたから。)

「何かネタとして扱われがちなこの作品。」

しっかりと鑑賞した事が結局ありませんでしたので。今回角川映画祭という機会で鑑賞してきました。

で。感想ですが。

「確かに面白い言い回しと言うか。語録はあった。でもそれ以上に…何と言うか…瑞々しかった。」

高度経済成長の時代。イケイケな角川映画。「観るのが先か。読むのが先か。」

小中高とあらゆる本を読みまくっていた当方。「ぼくらの七日間戦争」「ねらわれた学園」「時をかける少女」「セーラー服と機関銃」「犬神家の一族」等々。
角川作品は図書室に中でもポップで。勢いがあって。
映画が上映されていたのはひと昔前なので、当方は同時進行は出来なかった世代なのですが。今思っても、刊行される本と上映される映画が並行する時代って。しかもそれが大体は面白いって。羨ましいですよ。

ちょっと話がズレてしまいました。

「顔をぶたないで!私女優なんだから」「女優!女優!女優!」「貴方、そんな時女使いませんでした?」「あ~ただの女になっちゃう」

確かに香ばしいフレーズは沢山。と言ってもこれ。殆ど三田佳子のパートな気もしますが。

三田佳子は本物の大女優だ」

薬師丸ひろ子が主演。でも、中盤から後半の三田佳子の食いっぷり。この大物感。それも全然力んでいないのに。完全に圧倒される当方。

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「だって今の日本のこれくらいの年代の女優でこの役を出来る人物が居るかね?」

でも。結局は食われなかった薬師丸ひろ子

以前「ねらわれた学園」を妹とDVDで観た時の衝撃。「何故?原作は真顔で読めたのに…面白さしかない!」「峰岸徹の腹芸!」余りの内容に、演技には目が届かなかった我々。でも。今回は違う。

20歳。成人しているし、大人。大人なはずだけれど。

セックスしたら大人になれる?…でも結局確固たるものは何も得られなくて。
ぼんやりとした「役者として成功したい」という夢。でも現実はぱっとしない。誰も自分を救い上げてはくれない。どうすればいいのかもよく分からない。ただふらふらして。

そんな不安定な「少女」をリアルに演じ切っていました。

はっきり言ってねえ。あの世良公則と一緒になれば良いんですよ。それが幸せなんですよ。~と、歳を取った当方は思いますが。

ふらふらしている主人公に一目ぼれした26歳の青年。猛アタック。それをうざったく感じながらも、満更では無い主人公。
Wの悲劇のオーディションに落ちたとやさぐれる主人公。「よし!とことん飲もう。」提案する青年。そして向かう「吉田類の酒場放浪記」顔負けのうらぶれた酒場。何なんこれ。当方が主人公ならもう恋に落ちてるよ。

そして勢いで過ごしてしまう夜。最早コントの電球紐の下り。

前述した「香ばしいフレーズ」。当方が最も「ん?」となったのはそれらとは別で。

「私。結局またしてもらったのよね。」「違うよ。してもらったのは俺の方だ。」

その夜から随分経ってから。青年を避け続けた主人公が、ばったり会ってしまったコインランドリーで。ぽつりぽつりと話始める主人公と青年。そこでのフレーズ。

何なんだ「してもらう」って。例え酔った勢いでセックスしようとも、そんな考え方はあかん!そして、その会話!素面でよく出来るな。こっ恥ずかしくて…当方ならコインランドリーから顔を抑えて飛び出してしまうよ。

何だかんだぎこちなくも良い感じになっていく二人。

一見軽く見える世良公則ですけれど。不動産勤務で真面目に働いている訳やし。何より主人公に対して誠実やし。
所謂、有料物件ですよ。

このままハッピーエンドに持ち込めそう…だったのに。


そして講演の幕が開いて。起こった事件。

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「良いなあ~角川映画。全く観客に寝る暇など与えない。この緩急。」

一応は。一応はネタバレせずに行こうと思いますので。一番怒涛の畳みかけの起きる辺りをふんわりさせますが。


あの記者会見の薬師丸ひろ子の表情と口調。そして。カーテンコールでの挨拶の表情。

「あんなの、演技で出来るのか…。」

確かに「役者 薬師丸ひろ子」の誕生な訳ですよ。

(後、蜷川幸雄が本当に協力しているという、貴重な舞台である事。音楽を久石譲が担当している事。結構くどいし、はっきりした選曲をしていましたがね。レクイエムとか。妹尾河童が舞台美術である事とか。入れ子になっている「Wの悲劇」舞台も結構見ごたえがあるなあと思いました。)


後は…楽屋に花が届いて…の流れで良かったはずなんですがねえ。それも切ないけれど。そんなラストがスマートなはずなんやけれど。

高木美保(当時新人)がねえ…。


「絶対に幸せになれる。だからあんたはその青年の胸に飛び込みなさいよ!」(オネエ口調)叫ぶ当方。

エンドロール。当方には聞こえる。後方で鼻をすする人物の存在。


角川映画祭。本当は観たい作品は沢山あったのに。都合でこれしか観られない…予定。
ですが。観て損はしない。自宅でだらだら観るよりも、やっぱり映画館で観れて良かった。そんな作品でした。


(余談ですが。当日映画館から貰った角川映画祭の団扇。面白いので今でも鞄に常に入れて、折に触れて人目に触れる様にしている当方です。)


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