映画部活動報告「シング・ストリート 未来へのうた」
「シング・ストリート 未来へのうた」観ました。
(当方は今、シング・ストリートのサントラを聞きながらこの文章を書いています。)
1985年。14歳の主人公。アイルランドの学生。一目惚れした歳上の少女。彼女の気を引きたくて始めたバンド活動。そこで得たかけがえのない仲間。家族の事。彼女の事。学校。揉まれて。苦しんで。そして開かれていく彼の世界。
「何んなんだ…これは。」
悶えまくり。これはあかん。これはあかん。胸が。差し込まれ過ぎて痛い。
昨年の「はじまりのうた」映画部部長大絶賛作品。 ジョン・カーニー監督の新作。
「イヤホンさして一緒の音楽聴いて町中を歩き回る。」
(500)日のサマーでのイケヤデートに匹敵した、当方殺しのキュンデートプラン。
年齢がぐっと下がったのもあって、ライトな気持ちで観に行った今作品。
とんでもない。とんでもない締め付け作品でした。胸が苦しくて、泣きそうで(実際に泣いて)恥ずかしくて、気持ちが溢れて叫び出しそうで。
一言で言うと最高でした。
不景気で。両親は不仲。経済的に苦しくて、不本意な転校をさせられた主人公。
今までと違って、柄の悪い男子校。校長も意地悪。いじめっこの存在。およそ楽しめそうもない新生活。でも。
学校の前で出会った少女。
彼女の存在が、冴えない主人公の世界をがらりと変えてしまう。
モデルだという彼女を引き込むため。
PV出演という名目でバンドを組む主人公。唯一主人公に口を利いてくれた同級生と二人で集めるバンド仲間。
うさぎ小屋から。バンド名が決まって出てきた彼らのスロー画面にしびれる当方。
そしてバンド活動開始。
「誰も彼もが良いんやけれど…でも、やっぱりうさぎ好きなあいつ。あいつが好きで堪らん。」
だっせえ。流石80年代なケミカルジーンズ。しかも上下で決めて。眼鏡も石原軍団系。でも。何の楽器も自由自在に操れて。(現在の価値観で見るからダサく見えますが。これはこれで当時はお洒落。というか、中高生で流行に乗れているだけで十分勝ち組。)
両親が別れる。家族がばらばらになってしまう。でも、泣いて喚けば家族を繋ぎ止められる訳ではない。正に、人の気持ちは…覆水盆に帰らない。
でも寂しくて。やるせなくて。どうしようも無くて。
「曲を作ろうぜ‼」
いきなり家に押し掛けて。自分の中の押さえきれない気持ちを持て余して。でもぐだぐだ愚痴りに来たんじゃない。そういうんじゃない。だって俺達はバンド仲間だから。音楽をしたい。気持ちを作品に閉じ込めたい。作りたい。
そこにきちんと付き合ってくれて。寄り添って。でも、自分だって音楽が大好きだから。互いの音楽を認めあっているから。一緒に良いものを作ろうとする。
「一生ものの友達じゃないか。」
ストーリーとして散漫になるからでしょうね。まあまあ気になる背景をもつバンドメンバー達でしたが。そこはまあ…作品では掘り下げず。
一つ文句を言うならば。
「初めから技術面が完成されすぎやろう」
歌もバンドも上手すぎると。まあ、野暮ですが。
あのファーストPVは、映像や音楽のテイストこそは80年代でキッチュではあるけれど。歌もバンドも相当に上手いと思った当方。
この映画は、主人公の恋愛と成長がメインで語られますが。
「兄弟」も大切なテーマ。
お兄ちゃんがな。お兄ちゃんがまた…(涙声)
当方は第一子なんでね…あのお兄ちゃんの気持ちは泣けて仕方無かったですよ。
兄弟の中で一番手こずらせた。親にも迷惑を掛けた。だって…一番の初めの子供やったから。
でも家族は大好きで。大切で。誰も傷付いて欲しくない。
家族がばらばらになってしまう事を、最も恐れて受け入れられなかったのは、きっとあのお兄ちゃん。
駄目な両親を、皮肉りながらも見守っていけるのは自分だと。外に出ていく妹の帰れる家を守れるのは自分だと。
小さな弟が、初めての恋に夢中で。一緒にテレビを見て、自分の音楽観を語る相手であった弟が、音楽を教えてくれと乞うてきて。でも弟はあくまでも小さな弟なはずだった。
「おいおい。主人公よ。あんたの音楽のポリシーは?」
恥ずかしくなる位に。お兄ちゃんにレクチャーされた音楽に影響されまくる主人公。
そうやってすぐ染まって。でもそれが重なって。オリジナルになっていく主人公。
スポンジの様な弟にどんどん吸いとられる、お兄ちゃんの積み上げた世界。
「本当は俺だったんだよ!」
お兄ちゃんの爆発を思い出すと、涙でうるうるになる当方の視界。
大切なものを失っていく。なのにそこに立ち止まっているのは自分だけで。皆は少しずつ。でも確実に自分の道を歩き出している。
でも言いたい。俺だって。俺だってこんなはずじゃなかったんだと。
でも。彼は「お兄ちゃん」なんですよ。
一度気持ちを爆発させようとも、決して弟の後押しをやめたりはしない。
これは…。えらいな。でも仕方無い。だって彼は「お兄ちゃん」やからな…。
音楽とファッションの方向性がふらふらと迷走しながらも、決して揺らがなかった主人公の彼女に対する思い。
自分の世界観を理解してくれて。作品が良くなる為なら体を海になげうって。どう考えても運命の相手なのに。上手くいかなくて。
どこかで思い知らされる。自分は子供だという事。彼女にも夢があって。それを叶えられるのは子供の自分ではないと。
でも諦められなくて。
あのギグのシーンでまた泣く当方。
目の前の現実と、脳内で流れる理想の解離。切なくて。
でも。
だからなんだと。それがどうしたと。
だって運命の相手なんて。
一体この後そう思える相手なんていつ出てくる?そもそも出てくるの?
若いとか。今は無理とか。つまんないこと言わずに。と言うより寧ろ若いんやから。やらかせと。
若いんやなあ~と眩しくなった当方。だって、歳を重ねたら「バンド仲間」やら「家族」やらは新しい世界への飛び出しの足枷になる。でもすっぱり「彼女」だけを選べる主人公。
そんな主人公の背中を押して。
でも、実は駄目で戻ったとしても多分待っていてくれる。そんな仲間とお兄ちゃん。
そんなかけがえのない居場所を作れたんだと。
「こんな所」と思っていたその場所で。
最後の歌はお兄ちゃんからの餞別。
お兄ちゃんのリアクションと、歩き出す後ろ姿にまたまた泣く当方。
これは…。とんでもないやつが来てしまった。
今もシング・ストリートのサントラを聴きながら。不意に目を潤ませて。
こういう事があるから。映画はやめられないんですよ。