ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ヒメアノ~ル」

「ヒメアノ~ル」観ました。

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古谷実の同名漫画の映画化。吉田恵輔監督作品。

しがない平凡な主人公と、その先輩。彼等とある女性を巡るどうでもいい三角関係。そして並行して語られる、とあるシリアルキラーの闇。

森田剛の初主演映画。ジャニーズとは思えない。振り切れたダークサイドを演じた話題作。


当方は、吉田監督といえば「さんかく」が好きなんですよ。

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とあるカップル。そこに現れる彼女の妹。若さゆえなのか?無意識なのか意識的なのか、彼氏を翻弄してくる小悪魔の出現。甘い日々。それによって関係性が崩れるカップル。

…という所からの‼まさかのホラー映画。

あれは秀逸な映画でした。

今回のヒメアノ~ルも、ある意味「さんかく」手法。

前半。清掃会社に勤める岡田と安藤。目的が無い生き方を嘆きつつも、だからと言って何をする訳でも無い岡田。妙に堂々と言い切る、コミュニケーションが不得手そうな気持ち悪い系の先輩安藤。

安藤が思いを寄せるカフェ店員。ユカちゃん。

半ばうんざりしながらも安藤のキューピッド的な動きをしようとした岡田。そして棚ぼたに岡田の手に落ちたユカちゃん。

見た目も可愛くて。そんな非モテ連中には高嶺の花でしかないユカちゃん。

ユカちゃんを狙っていたのは安藤だけではない。

岡田の同級生であった森田。彼もまたユカちゃんに目を付けていた。

岡田と安藤のボンクラコンビのぬるいやり取り。そしてユカちゃんのマニアックな趣味嗜好。だって…。

「何で?何で濱田岳?」

いや。当方は濱田岳の何を知っている訳でも無いんですがね…でも解せない。あの岡田の魅力。ユカちゃんが恋に落ちる理由。

ユカちゃんが岡田に想いを告げる現場を押さえてしまった安藤。壊れる安藤。

でも。本当に壊れた奴の姿とは。

中盤。タイトルが出て、完全に雰囲気が一変する下り。不穏な音楽と映像。ただ者ではない森田剛。ゾクゾクする当方。
まさに「さんかく」手法。ホラー展開。

森田の背景として、時折差し込まれる高校時代の陰湿な苛めの風景。完全な被害者であった森田。

「だからって、ここまで行きつくものか。」

可哀想だった過去?だから歪んだ精神世界?そんな甘ったるい言葉ではフォロー出来る訳が無い森田の重ねる救い様の無い犯罪。

人様の家に上がり込み。包丁を振り回し。女はもれなく犯し。

「にしても。何で皆様オートロックの部屋に住んでないの。女性がそういう部屋に住んじゃいけないよ。」震える当方。

鍵開けるときに背後から来られるとか。恐ろし過ぎる。

何でこんなシリアルキラーを自分達で殺せると思うんやろう…。
森田を殺めようとし、返り討ちにされるカップルに「そりゃあそうなるよ」とため息を付く当方。

岡田とユカちゃんの、初めて結ばれる夜。二人だけの甘くて苦いやりとり。そして一晩中繰り返されるセックス。

その二人を描きながら。同時に同じ空の下で地獄を見て破滅するカップル。その対比。やるせない。

あんたたちは。あんたたちは、時間がかかるかもしれないけれど幸せになれたのに。幸せになれたのに。

たがが外れ。暴走していく森田。
そして映画世界あるあるの無能な国家権力。

森田剛の出ていた演劇を、当方は未見でして。役者森田剛を殆ど知らなかった訳ですが。

こういう役って…力一杯シリアルキラーを演じてしまいそうな気がするんですが。

森田剛の凄かったのは、あくまでも力まず自然だったという事。

高校時代。陰湿な苛め。苛めていた相手を打ちのめした快感。そこから。
最早暴力も殺人も強姦も繰り返し過ぎて、大した快楽ではない。
友情?愛?何それ。ちんたら時間掛けて手に入れるべきもの?馬鹿らしい。

なのに。どこかで己を責める声。

「凄いな森田剛。こんなに出来るのか。」

アイドルが何かを演じる時。付きまとうファンの姿。でも…あまっちょろいファンでは無理であろう、今回の森田役。

森田剛なら殺された~い。無茶苦茶にされた~い。」絶対に言われる訳が無い。(何やろうこのフレーズ)だって本当に嫌やから。

そして安藤を演じたムロツヨシ

見た目、話し方の気持ち悪さ。一見危ないキャラクター。でも結局は一線は越えなかったマトモな人物。

何もしていないようで、完全に受けをし続けた濱田岳演じる岡田。

彼が居ないことには、やはり大なり小なり壊れた奴等は自由に壊れられない。

「この三人は、どこで別れたらこうなるんやろう。」

かたや身の丈に合わない彼女を手に入れ。気持ち悪がられ。シリアルキラーになって。

どうして。どこでこんな歯車が回るのか。

いっそ森田は暴走して、全然感情移入なんて出来ないまま終わったら良かったのに。

「何あれ。卑怯すぎる。」

最後の最後。完全な崩壊。そして解放。あの森田剛の目。泣きそうになる当方。

柔らかい。柔らかい世界に。
優しさという力に押し潰され。押し寄せる幾多の感情に混乱し。

映画を観て何日も経っているのに。今でもその波は渦を巻いて治まることがない。そんな状態です。