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ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「リップヴァンウィンクルの花嫁」

「リップヴァンウィンクルの花嫁」観ました。


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花とアリス」から12年振り。
岩井俊二監督国内実写映画作品。

「これは…。とんでもない化け物映画が出て来た。まだ春先なのに…。」

冒頭の。雑踏の中で手を振る黒木華が映った時から。これはただ者ではないぞという気配を感じさせ。


黒木華演じる、主人公の七海。中学校の臨時講師。SNSで彼氏を見つけ。そして結婚。

一見まともで安定した人生の流れ。でも、ただ形をなぞっているだけの人生。
主人公は常におどおどし、自信がなく、こういう事でよいのかと自問自答している。

声が小さいと、中学生に舐められる…でも、中学生って残酷で厳しいからなあ。声が小さいは象徴でしかなくて、おそらくはそのおどおどした態度をおちょくっていたんだろうと思う当方。

その事で契約が打ち切られたのを「ちょうど結婚するタイミングだったから。」「家庭とは両立出来ないから。」と中学生と彼氏に言い訳し退職。

夫婦生活の破綻した両親とで、一丸となって円満な家族を装った結納の儀。

「披露宴で両家の呼ぶ人数バランスが取れない」と代理出席サービスを頼む主人公。

そんな綱渡りで、取り繕って手に入れた結婚生活の、早すぎるあっけない終末。

「主人公の余りにも受け身過ぎるスタンス…実際に居たら好きになれないタイプ」

当方が実際にこの主人公を見たら。
イライラや悲しさを通り越して「無」になりそうな「THE 受け身」の主人公。

主体性が無く、常に何かにすがりたくて。安全安定した場所に居たくて。
自分で立ち上がって歩いていくのは怖い。誰かに大丈夫だと言ってもらえる場所が欲しい。

「そんなの、誰だって欲しいよ!」

例えばこういうので良いのかしらと、どこか後ろめたさも感じたSNSで手に入れた彼氏。

違う。SNSという出会い方が問題じゃなくて。主人公がこういうので良いのかしらと思うべきは「恋をしていない」事。そういう相手と人生を共にしようとした。その浅はかさ。

だから、主人公は結婚生活が破綻してもそこには大して執着していない。…本来、そこが重大案件なのに。

ひたすら拠り所を失ったと泣きじゃくるだけ。そして自分は何処に行けば良いのかと。

「結局、自分可愛さしか無いんよなあ。そしてこういう弱々しい系女子は、リアル界では全く弱くないんだよ。」

役者黒木華の凄さは周知の事実ではありますが。
この作品に於て、黒木華不在は絶対に無理だったとしか言えない。他では無理。

主人公=黒木華としか見えない。その圧倒的な力。

そして今回初めて(失礼)「綾野剛って良いやん」と思った当方。

「何でも屋」の安室行舛。(あむろゆきます)
知り合ったきっかけは、主人公が披露宴で利用した代理出席サービス。
結婚した夫の素行調査。行き場を失ったと泣く主人公をサポートし、その後もあれこれと仕事を斡旋する。

パッと見は優しくて頼りがいのある人物。でも…とんだ悪人でもある。

「何でも屋」の受ける、多岐にわたる仕事をおだてたりなだめすかして回しているだけ。なのに。
その人当たりの良さ、口の上手さに惑わされてしまう。

「当方なら、こんな胡散臭い奴信じたりしないがな。」

そんな飄々とした狂言回しを、非常にナチュラルに演じた。綾野剛…やるなあ。


当方は中盤の、延々とさ迷う主人公の辺りが、映画としては好きですがね。

そしてCocco演じる、里中真白。

黒木華を。綾野剛を。そしてCoccoを当て書きしたんだなあと思うこの作品。

一見豪快で自由に見えて。実は誰よりも世界を怖がっている。突然ふっと消えてしまいそうで目が離せなくて。手を繋いでいないと危なっかしくて。

「知ってる?世界って幸せで一杯なんだよ」

文字では幸せに見えて…でもあんな絶望的な気持ちになる言葉は無い。

クラムボン。カンパネルラ。宮沢賢治ワールド。そういや主人公岩手県出身とか言われていたな…と思っていた所の全く宮沢賢治とは違う所からの「リップヴァンウィンクル」

リップヴァンウィンクルって。「アメリカの浦島太郎的な話から言われる。いわゆる『時代遅れ』の代名詞」なるほどなるほど。

不器用という言葉では言い尽くせない真白を表した、まさにのネーミング。(…と言いたい所なんですが、監督がたまたま見掛けた看板か何かの名前なんですよね)

SNSで呟き、彼氏を見つけ。架空の世界を使っていた主人公。でも結局それらには実体は無く。手に入れたはずのものはまた架空の世界に戻っていった。なのに。

自分も利用した代理出席サービスの参加で出会った偽造家族が。そこで知り合った時代遅れが。

主人公と真白の間にSNSは存在しない。

やっと「誰かに大丈夫だと言ってもらえる場所」を見つけた主人公。
そしてそれは受け身だけではなく「誰かに大丈夫だと言ってあげられる場所」だった。
その安心感。

そしてこの実体が終わりを告げた時。

主人公と綾野剛とあの母親とのいかれた酒宴。
それまで胡散臭く見ていた綾野剛に完全に泣かされる当方。タオルを口に押さえての嗚咽爆弾。あんなの反則やろう。

始めに「声が小さい」と舐められていた主人公の、きちんと出た「オーライ」の声。表情。

如何せん長い作品ですし、言いたい所は沢山あるし。言えば言うほど散漫になってしまいますので止めますが。(今で充分そのきらいはありますが)

ふわふわと、流されるだけ流された主人公が、やっと自分の足で踏みとどまれた。

そういう作品であったと思う当方。

あ。後、黒木華の歌う「ぼくたちの失敗」森田童子黒木華の神掛かった歌声。あれは全当方が死んだ瞬間でした。


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