ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ブリッジ・オブ・スパイ」

「ブリッジ・オブ・スパイ」観ました。


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スピルバーグ監督作品。トム・ハンクス主演。

1950~1960年代。米ソ冷戦下。
ポツダムのグリーニッケ橋にて行われた両国のスパイ交換。
それにアメリカ側として奔走したのは、民間の弁護士であった。

実話。ジェームズ・ドノバン弁護士をトム・ハンクスが演じた。

「これは一応王道のアメリカ映画だな。」

もう、終始「justice」「fair」とバックに描いてありそうなアメリカナイズ。

ソ連のスパイ、ルドルフ・アベル。絵描きを装っていた彼がアメリカ国内で捕まる冒頭。

ソ連のスパイ⁉殺せ‼」という世論の中「アメリカはそんな奴にもきちんと弁護士を付ける。一方的な処分にならないようにな」そして選ばれる主人公。

保険案件を専門にしていた彼。完全な畑違いの弁護士を付け、直ぐに終結すると思われた裁判。まさかの上告までなされ、結果アベルは死刑や終身刑ではなく30年の禁固刑となった。

アメリカ国民から「裏切り者!」とスカンを食らう主人公とその家族。

そんなある日。ソ連を上空から空撮していたアメリカの飛行機が撃墜。(U2撃墜事件)勿論のスパイ行為。

パイロットのパワーズがソ連にスパイ容疑で拘束。シベリア行きが確定。

「アメリカのあれやこれやをばらされる訳にはいかない‼」

アメリカ対ソ連。互いに持つ相手国のスパイを、ポツダムのグリーニッケ橋で交換した。この交渉に当たったのが、国では無く、前回アベルを担当した主人公であった。

大丈夫か…?
当方の拙い語彙と浅い知識がこの話からずれていないか不安ですが。もう目をつぶって走り出しますよ。

まあ。スピルバーグ監督、トム・ハンクス、実話ベースの米ソ冷戦時代劇ときたら、真面目で面白くなりますよ。

またね、ソ連のスパイ「アベル」のチャーミングさ。

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(マーク・ライアンス 55歳。イギリス人。可愛いなあ…。)

「不安を感じるか?」「それが役に立つか?」

何回か繰り返されたこの会話。

見た目は可愛いお爺ちゃん。絵描きで芸術を愛し、肩をすくめながら飄々と答える。とてもそんな大それた人物には見えない。でも。

「限りなくクロとしか言えない」立派なスパイ。(調べたら、「アベル」自体も偽名なんですね)そしてソ連での事、アメリカでの具体的な活動も一切口にしない。

主人公の弁護士。勿論アメリカ人で、始めは彼もこのソ連スパイを快くは思っていない。

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しかし、何度も会い、言葉を交わす内に二人に芽生えてゆく信頼関係。

「アメリカの国民感情」という強大な相手に対し、かたや敵国スパイであり、弁護士であり。
その二人に共通していたのは「信念を守り、曲げないプロ意識」そして「そういったプロ意識を持つ人物への尊敬を忘れない気持ち」

また、保険担当の弁護士というのも肝。「もしアメリカスパイに何かがあった時の切り札にしておきませんか?」という提案こそが、アベルが始めの裁判で生き延びた最大の理由だと思う当方。

そして、その「もし」が起きる。

ドイツ。東西を分けるベルリンの壁。ますます難しくなる情勢。東ベルリンの闇。

あきらかな国際問題でありながら、事がスパイ問題であること等からも、国もCIAも陣頭指揮を取れない。そこで指名される主人公。一介の弁護士なのに。

(一体主人公は何者なんだ?と思ったら、元OSS(CIAの前身)の弁護士なんですね。そりゃあそうですね。いくら何でも、街角の法律事務所所属じゃ無いですよね。)

そこで、始めの「これは一応王道のアメリカ映画だな」に戻るんですよ。

アメリカの立場からはこういう描き方になる。

でも、ソ連、話し合いの舞台となった東ベルリンの立場からは?

映画では話は繋がって描かれますが、アベルはこの時点で5年服役している。

「アメリカのパイロットが捕まった!色々ばらされたらヤバイから返して!おたくのスパイ返すから!」

言うならばこういう事なんですが、そのアメリカの対応と決着が2年位。早い早い。

捕まったパイロットが口を割ったのかは分かりませんが。ただ、はっきり言ってソ連からしたら「年老いたうちのスパイ」より「若い敵国現役スパイ」の方が圧倒的に利用価値が高い。

ましてや、「アメリカから共産主義を学びにきた、壁の辺りでうろついていたから捕まった学生。」なんて、何で話し合いのテーブルに乗せるのかと。

(「多分ね。当時共産主義って興味深くて流行った学問やったと思うよ。」by社会科教師)

「とにかくうちのスパイを返して欲しい。」「国の沽券に関わる」「でも政府は前面には出られない」「アメリカを信じられない…。大体、あいつ本当に喋ってないの?」「これで国として認めて欲しい。」そんな各国の本音。崩せない体面。

何だかんだ言って、対応してくれたソ連、東ベルリンも十分「justice」「fair」にやってくれたと思う当方。よくやってくれたよ。

何故当方が「一応」と言うかというと、そう考えさせてくれる作りになっているから。一応は。

ゼロ・ダーク・サーティ」「アメリカンスナイパー」「黄金のアデーレ」「華麗なるチェックメイト

例えばここ数年のアメリカモノ。映画で描かれるのはアメリカサイドですが、視点を変えれば、見える世界はがらっと変わる。見たものが全てでは無い。


ただ、この作品に於ける弁護士とスパイの、国や主義を超えた友情。

そして、始めは「一つの事故に対し、何人居ようが一つの事故に過ぎない」みたいな事を言っていた主人公が「一つの取引きに一人では無い。一人一人が大切なんだ(詳細うろ覚え)」と変わっていく様も心を打たれました。

ただ…。彼等(学生を除く)が祖国に帰る事は、本当に…幸せなんですかね?

雪の降る橋の到着先。それは暖かい日常では、おそらく無い。でも。

「不安を感じるか?」

「それが役に立つか?」

飄々と肩をすくめながら。きっとアベルはやっていける。

それにしても、エンドロールの文章に「これ、続編出来るな!」と目を見張る当方。

本当にアメリカって国は…。


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