ワタナベ星人の独語時間

所詮は戯言です。

映画部活動報告「ナイトクローラー」

「ナイトクローラー」観ました。


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夜のロサンゼルス。警察の無線を傍受し、車をかっ飛ばし、誰よりも早く事件の画を録り。それをテレビに売る。
そんな報道パパラッチ(ナイトクローラー)の存在を知り。
己もその道に入り、成り上がっていく主人公を描く。

随分と評判が良くてですね。

ある男のサクセスストーリー。アメリカンドリームな訳ですが。

ジェイク・ギレンホール演じる主人公、ルイスの気色悪さ。

「目力って…。本当に凄いな。」

痩せた顔にギョロ目。常に見開かれた目の、そのインパクト。

いや、別に顔だけが気色悪い訳ではありませんよ。

ネットで得た知識で構成される自我。でも、そこには己の信念や倫理観は無く。
力強いハッタリ。でも、言ってる事はどこかで聞いた様なつぎはぎで、ちぐはぐ。
助手にも「俺の言う通りにやれ!」「考えさせる質問はやめろ!簡潔に!」と喚き。…そりゃあ、自身に深みが無いんですから。色々言われたくないでしょうね。

何故か万能感、自信に満ち溢れ。確かに、何でも一定水準はこなせる器用さは持ち合わせているんでしょうが。

「俺に仕事を与えてくれ。俺は真面目だし、努力家だし、飲み込みも早く、向上心もある。」

じゃあ、何で今まで自分でマトモな仕事を探さなかったんだ。

まあ、どう見てもコミュニケーションスキルが無さすぎるからですけれど。

チームワークを要する仕事が圧倒的に多い世の中で、人の心を持たない者がやっていける訳が無いんですよ。

カメラマンという職業の方々に対して、当方は普段特別な感情は持っていませんので。決して中傷ではありません。

ただ。この作品と、普段チラッと過る事を書かせて頂きたいと思うのですが。

「この主人公は、ただのカメラでしかない。マンは無い。」

日本のお茶の間ニュースでは、こういった衝撃映像(死体等)は流れませんので。
アメリカ人の「視聴者が見たい映像と実際」というレベルが分かりませんが。

カメラを向ける、その人間の感情。(報道系に於いて。)

「人々に知って欲しい。」というそれが無くて。

ただ「衝撃映像だ」と回すだけ。

感情など全く無い、ただの野次馬定点カメラ。

テレビで。ネットで。どこかで見たことがある画を、刺激的に仕上げて流したいだけ。「これが見たいんでしょう?」と。…それは果たして見たいものなんですかね?

それは、ニュース等で見る、現場中継の野次馬にも感じたりもする当方。

誰かが巻き込まれている有事に、携帯電話のカメラを向ける人々。

何でもすぐネットに上がる、個人情報。

舟崎克彦作。「ほっぺん先生と笑うカモメ号」

今日、自室から参考資料として読み直すつもりで持ち出した本。鞄から出してみたら「ほっぺん先生と帰らずの沼」であった衝撃。不覚。

…うろ覚えになってしまいますがね。

ほっぺん先生が、ワライカモメに「記念に写真を撮らせてくれ」とカメラを向けたら、ワライカモメが怒るエピソードがあるんですよ。

「カメラを向ける目は、獲物を狙う目ダワ!」(肝心な台詞が…。)

この台詞のエピソードは、本の内容を突き詰めたら例えに使うのは適切では無いんですがね。

ただ。過剰で調子に乗った画を見たら、何故だか当方はいつもワライカモメの台詞を思い出すんですよ。

(ほっぺん先生シリーズは超名作の児童文学です。岩波少年文庫には、全てを文庫サイズにして頂きたいし、誰にでも自信を持ってお勧めします。)

そうなんですよね。

映画作品中も、撮られる側は止めろと怒り。

そりゃあそうですよ。誰がお茶の間に自分の有事を流されたいと思うか。

知る権利が暴走すると、もう訳の分からない事態になって。…最早映し出されるのは現実では無い、歪んだエンターテイメント映像。


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意外と「サイコパスに見えて、キャラクターとしては分かりやすい」主人公。

映画鑑賞直後は「あいつ…。何であの時計は買い替えないんだ。」と思っていましたが。結局、戦利品だからですね。気に入ったとしても、普通の精神なら自分で改めて買いますよ。

そして、成功しても、住み続ける住居。主人公の生活はあんまり描かれてはいませんでしたけれども。
車や機材のクオリティーは上げていましたが、生活は無頓着な印象。

根底は、仕事第一なんですね。人並みか、それ以上に承認欲求の強い。


この作品はある意味入れ子ですね。
観ている側を引き込む力とは。
人間の根底にある、下品な野次馬根性。そこを刺激する強い作品。


ある程度の高みに辿り着いて、拡張していくのであろう主人公。

どこまで、走り抜けられるのか。凡庸化するのか。自爆するのか。


ただ、その先はもう知りたくはありません。