映画部活動報告「あん」
「あん」観ました。
永瀬正敏扮する主人公。いかにも無骨な彼が、街の片隅でひっそりと営むどら焼き屋が舞台。
中高生が帰宅中に立ち寄ったり、街の人達がふらりと買っていく小さなどら焼き屋。
ある桜の日。一人の老女が「アルバイトの貼り紙を見た。安くで良いので、雇って欲しい。」と現れる。
薄気味悪いし、年寄りで使えそうに無いと、けんもほろろに追い返す主人公。
しかし、再びタッパー片手に現れる老女。「貴方のどら焼きは、皮は美味しいけれど…。あんが全然駄目。私は50年以上あんを作ってきたの。良かったら食べてみて。」
一旦はごみに捨てたタッパー。何となく気になって食べたそれは、とんでもない絶品で。
「どら焼きを滅茶滅茶食べる奴…。」
勿論の国民食。誰もが食べた事はあるし。…でも、「こりゃあ美味いわ!」と膝を打つどら焼き…。当方は出会った気がしません。
まあ、おふざけはいいとして。
どら焼き屋を手伝ってもらう事となった老女。彼女に教わるあん作りは、とても手間の掛かる…愛情に満ちたもので。
実は、訳ありでどら焼き屋をやっているだけで、甘党でも何でもなかった主人公。しかし、だんだんとどら焼き屋が楽しくなっていって。
でも、そこに影を落とす、余計な闖入者が。
まあ。宣伝でネタバレしまくっているし。公開して随分経っているし。進めますが。
「あの人。ハンセン病患者でしょ。ハンセン病って言ったら、昔は皆隔離されていたのよ。何でそんな人が。ああ嫌だ。今に嫌な噂が流れるわよ。」
店に置いている、速乾性アルコールを手に吹き付けながら、悪意100%で言いに来る、どら焼き屋オーナーの浅田美代子。
「食べ物屋に、毛だらけの上着着て、モップみたいな犬を連れてくるお前のがよっぽど汚いわ!」心の中で叫ぶ当方。
オーナーに恩義があって、歯向かえない主人公。
彼は理不尽な偏見に反発を覚えながらも、酒に身を浸すばかりで何も出来ない。
「どら焼き凄く美味しくなったね。」と客足が伸びていたどら焼き屋。
春に出会った二人。夏を越えて、秋を迎える頃…。
客足がぱったり途絶えてしまう。
「美味しいは正義とちゃうんか‼」
ハンセン病。かつてらい病と呼ばれていたそれ。
元々は感染力の弱い感染症で、治療可能なものでありながら、「手足が落ちる。鼻がもげる。」と重症患者の症状のビジュアルばかりが先行して。
初めは治療目的で集められた彼等の姿は、社会に「隔離が必要だという事は、感染力が強いという事か。」という誤解を与え。
異形の者に対する生理的な嫌悪感。恐れ。無理解。
いわゆる「臭いものには蓋」で、彼等を見たくない、考えたくないと世間から閉め出した、苦すぎる歴史。
でも…。それは間違った認識であったと、思わない人も居て。
「当方が食べ物屋でひくと言えば…。トイレの後手を洗っていないとか。異物混入と使い回しとか…。」
本当に、この街の人達が「元ハンセン病患者の作ったどら焼き」という理由で、誰もこの店に行かないのだとしたら。
正直、この街の人達に対してがっかりします。
ぎこちなくコンビを解消したたい焼き屋。
この映画には、もう一人女子中学生の視点もあるのですが。
うん。いいんですけれどもね。どうしても、「樹木希林が出ると、内田家の誰かが居るんよなあ~。」と思ったりしてしまってね。邪推ですがね。
女子中学生が、飼っている「かごの鳥」は正に暗喩で。
かつて、断絶と言っていい隔離を経験した老女。ふわふわと外に出た彼女の目に映る、光輝く世界とつきまとう影。
無骨で。優しくて。不器用で。おかしな事を言う相手に強く言えないし、自分の気持ちと進むべき行動が擦り合わせられない。
誰も守れなかったと、老女が作ったお汁粉を食べながら泣く主人公。
「美味しい時に、泣くのはおかしいわよ。」
その言葉の、優しさと強さ。
本当に自由になれた老女と、自分でかごから出られた主人公。
新しい桜の中の主人公の前途を、祈るばかりの新しい春でした。