映画部活動報告「乃梨子の場合」
「乃梨子の場合」観ました。
金曜日。訳のわからない忙しさで駆けずり回った一日。
汗だくやし、本当は何より風呂に入りたい。
…でも、何かいらいらとくすぶった気持ちが。真っ直ぐ帰宅するには足りない。そんな日。
刑事の夫と、幼い娘と暮らす主婦の乃梨子。
スーパーのレジでのパートをし。平々凡々と生きていた乃梨子。しかし。
「実は一年前に仕事を辞めていた。退職金も使い果たした。」
まさかの夫の失業。しかも理由もはっきり告げられず。
乃梨子は、前に口説かれたスーパーの出入りの佃煮屋と関係。
食いついてきた佃煮屋に、今後の援助交際を提案。
のめり込む佃煮屋…。
「乃梨子の場合。ベストチョイス」
80分も無いんですよね。このコンパクト、かつ堕ちた世界。
また。この乃梨子がまた(失礼ながら)絶妙なんですよ。ビジュアルも飛び抜けて綺麗な訳でも無い。かと言って、崩れてもいない。
浅黒く、ノースリーブ焼けした肌。ベージュ系の下着。
結婚して落ち着いているようで、どことなく浮わついてやさぐれた主婦。
またどこにでも居そうな佃煮屋が、確かに隙を見つけそうな主婦なんですよね。でも。
一回会うのに2万を提示した乃梨子に対し、「5万だすよ!」と畳み掛ける佃煮屋。
「えっ!」と思わず声に出してしまった当方。
5万も出す価値あるのかよ~。体云々って言うより、何をしてくれるっていうんよ~。この主婦が。
乃梨子の心中は深くは語られませんので、あくまでも当方の推測でしかありませんが。
たとえ金を払ってセックスしたとて、乃梨子は全く家族を捨てるつもりがない。そのスタンスは終始一貫しているんですよ。
案の定、金をむしりとられるばかり。
妙齢の佃煮屋。母親と工場を切り盛りし、結婚を薦められ。のらりくらり対応しながらも、結婚を意識している。
恋?恋なんですかね?
佃煮屋の乃梨子への執着は、果たして恋なんですかね?何だかそうも見えなくて。
「趣味ですか?金儲けとセックスです」
始めは軽い気持ちで声をかけた主婦。上手くやれたと思いきや、相手は一枚上をいこうとする。そこでストップがかけられんかったら…。ただ転落するばかり。
どれだけつぎ込んだかは知りませんがね。
確かに…。乃梨子への気持ちは、愛だの恋だのじゃなくて、恐れや、嫌悪や、憎しみになるでしょうね。
この作品で、一番得体が知れないのは夫。
何故刑事を辞めたのか。「お前にも言うても分からんと思うことあるやろ」と結局言わず。
間男に手を降って妻を見おくれる夫。
「(誰の子であっても)子供は風の子」理論からの、実は通通な夫婦関係という怖さ。
終盤の展開の手際。
気持ち悪いのはいつから?
この夫は元からこうなのか。
どうとでも取れる、彼のキャラクター設定。その定まらなさが、かえって不気味。
でも結局、乃梨子と夫の「同じ穴のムジナ」という共犯関係。まさに夫婦。
それこそが、あまたの金を注ぎ込んでも、佃煮屋が欲しかったであろう「絆」なのかもしれない。
大人しく一家庭に収まっていた乃梨子。彼女の獣性が育ち、ただの化け物となり。そして野に放たれたとき。
意外としれっと戻りそうな気はしますがね。
べたべたした体も気持ちも、いっそもっとどろどろにして。
帰宅して風呂に入ったら、すっきりしました。